すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。主な作品に『ぼくのトイレ』『しごとば』シリーズなど(撮影/戸嶋日菜乃)
すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。主な作品に『ぼくのトイレ』『しごとば』シリーズなど(撮影/戸嶋日菜乃)

「最後、自分の車の横を通り過ぎる黒塗りの車に頭を下げると、運転していた男性がこちらも見ずに二本指をこめかみに当てて離すジェスチャーであいさつしてくれまして」

 ノーサイド。そんな言葉が聞こえた気がして、そのかっこよさにシビれた絵本作家だった。

■独特の鈴木ワールド

 清々(すがすが)しい結末となったそんなピンチを経験した絵本作家とは、鈴木のりたけさん。2022年2月に発売された、子どもの世界でありがちな失敗を絵本にした『大ピンチずかん』は現在累計発行部数25万部を超える大ヒット絵本に。数多くの賞を受賞している。

 鈴木さんが会社員やグラフィックデザイナーを経て、絵本作家としてデビューしたのは08年のこと。フライドポテト専門店で、来る日も来る日もフライドポテトを揚げさせられるケチャップが主人公の『ケチャップマン』というシュールな絵本がデビュー作だった。以来、『おしりをしりたい』『す~べりだい』『ねるじかん』など、独特の鈴木ワールドが展開する絵本でファンを増やし、これまでにも多くの賞を受賞している。

 2週間に1回、小学校で読み聞かせのボランティアをしているという知り合いの女性によれば、読み聞かせを始めると子どもたちはたちまち鈴木ワールドのとりこに。どの作品もドッカンドッカンウケまくりだ。

 とくにこの『大ピンチずかん』は、「周囲の子どもたちもケラケラ笑いっぱなし」(女性)。そんな楽しい本が生まれるきっかけになったのは、現在中3、小6、小4になった鈴木さんの3人の子どもたちだった。この本の表紙にもなった、テーブルに牛乳を盛大にぶちまけるシチュエーションなど、ほとんど子どもたちが実際にやったリアクションが元になっているという。

■失敗が失敗を呼んで

「そうなんです。牛乳をこぼして、ふかなきゃねとなったときに、一人の子がティッシュをたった1枚だけ持ってきて。それをこぼれた牛乳の上に、布団でもかけるようにパラリとかけたんです。あれだけこぼしてティッシュ1枚では、全部吸い取るわけもないんですが……(笑)」(鈴木さん)

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