滞在したのはリノベーションされた古民家。刻々と変わる海を見ながら、いつもより晴れやかな気持ちで仕事ができた(写真:編集部・川口 穣)
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 子どもを地域の保育園に預け、海を見ながらテレワーク──。そんな夢のような働き方が徐々に実現可能になっている。背景には人口減少が進むなか、移住を促進したい自治体の課題があるという。AERA2024年11月25日号より。

【写真】保育園に通う子どもを迎えたあとは、毎日海に寄って遊ぶ生活を堪能!

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 視線をパソコンから離し、ふと目を上げると薄群青の日本海が視界いっぱいに広がった。午前中荒々しく白波が立っていた水面はすっかりと落ち着き、傾き始めた午後の太陽に照らされてキラリと光っている。

子どもも貴重な経験を

 10月、8泊9日で福井県を訪れ、「親子ワーケーション」を体験した。沿岸部にある一棟貸しの古民家に滞在し、週末は家族で観光。平日は2人の子どもを地域の保育園に預け、私たち夫婦はテレワークで仕事をした。東京での生活よりもだいぶ早く起き、海岸で遊んでから保育園へ。滞在先に戻ると海を見ながらパソコンに向かう。普段より少し早めに仕事を切り上げて子どもを迎えに行き、また海岸に寄って岩場を歩いたり、夕日を眺めたり。温泉に入り、家族で夕食を食べ、子どもを寝かせた後はゆっくりとビールを飲む。翌朝目を覚ましてテラスで伸びをすると、軒先で体操する近所の住民と目が合って手を振ってくれる──。滞在先から保育園まで車で約20分、食材などを購入できるスーパーまでは30分ほどかかる地域で「便利」とは言えないが、普段の慌ただしい日常とは全く違う、ゆったりとした時間が流れていた。

 子どもたちにとっても貴重な経験になったと思う。普段通っている保育園は商業ビルのなかにあり、1学年20人の大所帯。一方、福井で通った園は1学年が多くて3人ほど。毎日の散歩で近隣の海や山に出かけていく環境だった。新たな世界に飛び込んでいく不安はあったようで初日はかなり緊張していたが、5歳の長男はすぐに溶け込み、「また来る」と約束していた。園の散歩で拾ってきたシカの骨を「たからもの」と言っている。2歳の長女も最終日にもらった色紙を持ち出しては、うれしそうに写真を指さしている。

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「求めていた働き方」