元中国共産党のエリート副教授の逃亡記だ。著者が官僚の私財公開要求の運動に携わっただけで、当局は監視を強め、仲間が次々と拘束される。妻子に別れをつげ、身を隠すことを決断し、逃亡は2年で2万キロに及んだ。
時にはチベットの雪山を歩いて越え、バスの貨物室で10時間以上、揺られる。途中、当局に2度拘束されながらも、軟禁下のホテルから脱出。逃げても逃げても、潜伏場所には追っ手が迫るが紙一重で追跡を振り切る。チベットやミャンマーなどに身を隠し、現在もタイに潜伏。スパイ映画がかすむほどの緊迫感が全体に張り詰める。
逃亡先では著者と同じ理想を抱える仲間たちが無償で支援の手を差し伸べる。カネや地位を投げ出しての著者の行動は、経済が富んでも社会が豊かにならない中国の現状を浮き彫りにする。
※週刊朝日 2016年7月15日号