クマはいったん離れたものの、翌朝4時半ごろテントに手をかけて引っ張り始めた。負けじと部員たちは内側から引っ張り返した。約5分後、もうもたないと判断。部員たちはクマとは反対側の出入口から一斉に逃げ出した。振り返ると、クマは悠然と食料をあさっていた。
2時間ほどすると、クマは茂みの中に姿を消した。それを見た部員たちはテントとザックを回収した。
しかし、そのときクマは、食料の入ったザックを「自分の所有物」と認識していたに違いないと、何度も遭難現場を訪れた門崎さんは言う。
「部員たちが3度にわたりザックを守り、取り戻そうとしたことから、ヒグマはザックを確保するために彼らを徹底的に排除しようとしたのでしょう。ヒグマは本当に執念の動物です。やりたいことをやり通そうとする」
恐るべきことに、このクマはその後、福岡大パーティーを2キロ以上にわたって執ように追い続け、次々に部員たちを襲ったのだ。
衝撃的な事件は大きく報道され、ヒグマの執ような行動が全国に知られるようになった。
鈴よりホイッスルを
ヒグマが人間を襲うことはまれだが、決して「異常」な行動ではないという。
門崎さんが行った96件の人身被害の調査によると、ヒグマが人を襲う理由は「排除」「食害」「戯れ」の3つに大別される。
このうち最も多いのは「排除」で、確保した食べものを保持し続けるために邪魔になる人の存在を取り除くために攻撃する。福岡大ワンゲル部ヒグマ襲撃事件や、大千軒岳で消防士たちを襲ったケースがこれにあたる。子グマを守ろうとする母グマが人間を襲うこともある。
「食害」は人を食べるために襲うもので、動物性の食物を渇望しているときに起こる。大千軒岳で北大生が襲われたケースは食害にあたると、門崎さんは推測する。
「戯れ」は好奇心旺盛な満2歳のクマに多く、人にちょっかいを出すことをさす。