鳥取県出身、現在24歳のアーティスト、jo0jiの初となるワンマンライブ【jo0ji 1st ONEMAN LIVE 漁火】が開催された。11月1日の東京公演は渋谷WWW Xにて行われ、ソールドアウトした会場には、オープン直後から続々と来場者が集結。例のごとくフロアで開演前BGMが流れるなか、その裏では常にさざ波のSEが流れていて、今でも地元の漁港で働きながら音楽を続けている彼のバックグラウンドを思い出させる。この日、渋谷WWW Xのエントランスでは、網や篭などの漁道具を使った装飾も行われていた。
「親父は漁師。地元じゃずっと、負け知らず――」とラジオのような音声で口上が流れ、ライブは編曲にトオミヨウを迎えた最新シングル「ワークソング」でスタート。続いて、伝統的なお囃子を思わせるイントロの「明見」は、jo0jiもギターをかき鳴らしながらマイクに向かう。歌い出しの〈こんな具合になったのは/きっとあんたのパンクをみたから/ロック・アンド・ロールするには/大口叩いてみることだな〉という一節は、前述の口上でも引用されているjo0jiの所信表明であり、その曲名は彼の父親が持つ漁船“明見丸”から取られたもの。スクリーンには大海原の映像が映し出され、いよいよjo0jiの記念すべき“進水式”が始まる。
友人のために制作した楽曲「不屈に花」をYouTubeに公開したことから、本格的に音楽活動をスタートさせたjo0ji。2023年9月にリリースした1st EP『475』は、共同編曲としてWONKの江崎文武、井上幹が参加したことも話題となった。冒頭の「明見」で言及したような伝統音楽、あるいは彼が音楽ルーツとして明言している中島みゆき、吉田拓郎などのフォーク・ミュージックから受け継いだエッセンスは随所に感じるし、jo0ji自身の歌い回し、メロディの泳ぎ方や拍の取り方、こぶしの表現はいずれも土着的なフレーバーなのだが、一方でサブスク世代ならではの自由なクロスオーバー感覚も共存しているのが特徴的だ。祝祭感あふれるアイリッシュ×カントリー調の「言焉」、さらにスカのハネ感もブレンドした「謳う」の陽気な2連打には、まだまだ荒削りな今のjo0jiだからこそ出せる味が宿っていたように思う。
「おばあちゃんの曲やります」と言って披露された「cuz」は、亡くなった祖母に向けて作られた曲で、1st EP『475』を締めくくるエンド・ナンバー。隣に座って優しく語りかけるようでもあり、空を見上げながら自分の中だけで反芻する祈りのようでもあるその歌は、とにかく感動的で美しい。ダークなピアノの音色から重厚なストーナー・ロックへと展開していく「BAE」の歌声に至ってはいよいよ覚醒状態で、自己破滅型のロックスター然としたカタルシスたっぷりのパフォーマンスだったし、間髪を入れずに始まった「ゑ喪」も躁鬱を自由自在に行き交うボーカリゼーション。ただ楽譜通りに音階をなぞるだけでは成しえない、シンガーとしての紛れもない矜持とアイデンティティを提示する前半のハイライトだった。
ベース&バンドマスターのKNOB(AFRO PARKER)、ギターのDATTAM、キーボードのKoki(monenai)、そしてドラムのTK-808(AFRO PARKER)も、バックで職人に徹するサポートメンバーの佇まいではない。しっかりフロントマンの呼吸に合わせた、文字通り“ライブ”の演奏でパフォーマンスを肉付けしていく。そのバンドメンバーとともに制作された楽曲「escaper」は、強靭なアンサンブルがライブハウスの密室空間では乱反射するようなエネルギーを放った一曲で、もっと大きな会場、例えば野外フェスの広大なフィールドで観衆を大いに沸かせる未来を想像せずにはいられない、興奮のボルテージが最高潮に達したショーの折り返し地点だ。
VJ&バンド演奏のインターバルを経て、観客も〈everything all right〉の合唱に参加した「Nukui」からは、直前の激しい高揚が心地良い余韻へと転じていくチルアウトのセクション。バンドのメンバー紹介が挟まれた未発表曲「繋類」もノスタルジア全開の牧歌的なナンバーで、後続の「ランタン」「眼差し」を含め、演者とオーディエンスの心の距離がぐぐっと縮まるような親密感が場の空気をほぐしていく。続くタイトル未定の新曲は、なかなか自分の気持ちを曲にすることがないというjo0jiが「お前の気持ちを聞いてみたい」と言われて作ったそうだが、MCで「大丈夫? しんどくなってる人いない?」とファンを気遣ったり、衣装をアピールして「この服ね、今日のために作ってもらったんですよ」と嬉しそうに語ったり、そういった彼自身の人情味はどの曲を聴いてもありありと伝わってくるのだ。
デモ公開曲の「雨酔い」に続き、披露された「不屈に花」はjo0jiの始まりの曲。「音楽を始めてから憧れの人たちに会う機会も増えて、岸から見ていた光みたいな人たちと一緒にやれるようになってきた」。自分もその岸から見える光=漁火のような存在になりたいという意気込みが、今回の1stワンマンライブのタイトルに込められているというが、この曲を友人のために作ったその瞬間から、きっとjo0jiは誰かにとっての漁火になっていたのではないだろうか。「付き合っていた彼から酷い振られ方をした幼馴染の女友達」のために書いたという「駄叉」で迎えた本編のエンディングもとても象徴的だった。
アンコールで披露されたのは新曲「third man」と「≒」の2曲。最後に再びスクリーンに大海の映像が投影され、そこにスタッフ・クレジットが映し出される。デビュー当初から度々タッグを組み、今回も映像演出を手掛けたクリエイティブ・ユニット、Margtの面々をはじめ、そのクレジットに名を連ねたスタッフ陣もまた、オーディエンスと同じようにjo0jiという光に惹かれ、集まってきた仲間たちだ。
それでも火は灯されたばかり。終演後、興奮冷めやらぬなか、フィナーレを飾った「≒」の一節がいつまでも頭の中で反響し続けていた。〈一切合切放り出したっていいよ/いつまでも俺が味方でいよう/約束なんか果たされなくとも/もういいだろ、/結んだことに大いに意味があんだ、〉
Text:Takuto Ueda
Photo:Ayumu Kosugi
◎公演情報
【jo0ji 1st ONEMAN LIVE 漁火】
2024年11月1日(金)東京・渋谷WWW X
2024年11月9日(土)大阪・Yogibo META VALLEY
▼セットリスト
01. ワークソング
02. 明見
03. 言焉
04. 謳う(デモ公開曲)
05. cuz
06. BAE
07. ゑ喪(デモ公開曲)
08. escaper
09. Nukui
10. 繋類
11. ランタン
12. 眼差し
13. 新規録音(未発表曲)
14. 雨酔い(デモ公開曲)
15. 不屈に花
16. 駄叉
En1. third man(未発表曲)
En2. ≒