1980年代のニューヨーク。孤独なドッグは友達ロボットを購入し自ら組み立てる。二人は意気投合し、友情を育んでいく。だが夏の終わりにドッグと海水浴を楽しんだロボットに変化が現れる──。第96回米アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされた切なく温かい物語「ロボット・ドリームズ」。パブロ・ベルヘル監督に本作の見どころを聞いた。
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ずっと実写を監督してきて、まさかアニメーションを撮るとは思ってもいませんでした。でもサラ・バロンのグラフィックノベルに出合い、深く心を動かされたんです。友情、人と人の関係性の儚さ。誰かを失ったり、相手との関係が終わったりした後、残された人はどうやってそこから生きていくのか──私の扱いたいテーマが全部、詰まっていました。
原作との違いはドッグとロボットのほかに「ニューヨーク」を3人目の主人公にしたところです。私自身、1970年代末から90年代、あの場所が世界の中心だった時代を肌で知っています。多様性や寛容性があり「なにごとも可能なのでは?」と思わせるエネルギーがあった。いまはもうその空気は失われてしまっていますが、本作でタイムトラベルするような感覚になってもらえればと思いました。
アース・ウインド&ファイアーの「セプテンバー」をテーマ曲にすることも最初から決めていました。アップビートでファンキーで「Do you remember?」ではじまるこの曲は私がこの映画の大きなテーマにした「メモリー」にぴったりなんです。ドッグとロボットは会えない間もずっとお互いのことを思い続けています。でも「記憶」や「思い出」は大切であると同時に、そこから抜け出せないものであってはいけません。前に進むことが大事なのです。
私は日本のアニメに多大な影響を受けています。スペインの子どもはテレビで「マジンガーZ」や「アルプスの少女ハイジ」を見て育つんです。日本のアニメは感情の深部を震わせます。ロボットの組み立てシーンが「天空の城ラピュタ」のロボット兵に似ていましたか? その通りです!(笑)。実は原作にも「ラピュタ」へのオマージュが描かれた場面があるんです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年11月18日号