そんな国民的アイドル巨人に入団し、名門再建を担う長嶋新監督の秘蔵っ子としてさらなる注目を集めたことから、キャンプ地・宮崎は当然のように“狂騒曲”の舞台と化した。

 2軍の宿舎・水光苑には「定岡さんはいつ来るの?」の問い合わせが殺到。「定岡さんの使った食器を洗いたい。給料は要らないから雇ってほしい」と頼み込む女子学生もいたという。だが、長嶋監督は「定岡に投資します。巨人だけに限らず、球界全体を代表する投手に成長させるため、将来性豊かな定岡に賭けてみるのです」と1軍スタートを決め、3月のベロビーチキャンプの遠征メンバーにも抜擢した。

 そんななか、卒業試験の影響で合流が遅れた定岡は、2月8日に宮崎入り。翌9日、初めてグラウンドに姿を見せた。この日は日曜日で、晴天も重なり、1軍練習場の県営宮崎球場には、キャンプ始まって以来最高の1万5千人が来場。まさに“定岡効果”だった。朝の散歩の際には、報道陣が一斉に定岡を追いかけていったため、主役の座を奪われた長嶋監督は「今日ほどのんびり散歩ができたことはない」と苦笑した。

 練習が始まると、女性ファンたちは、お目当ての定岡の一挙手一投足に熱狂。ブルペンで40球の投げ込みを終えた定岡がマウンドを降りると、「握手して!」と一斉になだれ込んできたため、見かねた堀内が「ビートルズじゃないんだぞ!」とたしなめるひと幕も。さらに定岡がブルペン隣の着替え小屋に入ると、サインを貰おうと追いかけてきた親衛隊が「定岡さん、(着替えを)見せて~!」と黄色い声を上げた。

 また、練習後のボールケース運びは新人の仕事なのだが、真っ先に運ばなければいけない定岡の姿が見えない。「どこに行った!」とコーチ陣は目を怒らせたが、実は、淡河弘バッテリーコーチが「走らなければ、もみくちゃにされてしまう」と気遣い、ひと足先に帰らせていたと判明。新人の雑用も免除されるほどのフィーバーぶりだった。

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