不慮の事故で植物状態となった父親の遺産は2億円。主人公である次男の田村次也は延命治療を望み、長男の一也は異を唱え、「延命治療など、おやじは望んじゃいない」と言う。二人の妻や子供、父親の恋人、会社の幹部、弁護士らを巻き込み、事態は田村家の崩壊へと向かっていく。
 人は誰でも自分の人生の主役。その立場から発する言葉、行動はその人にとっての正論である。延命治療と遺産相続の渦中で、二人の息子は決断を迫られ、悩み、争い、疲労し、次也は自分の心の奥底まで“正しさ”を求めてさまよっていく。
『八月の青い蝶』でデビューした著者の今作では、読者は物語の展開に驚き、息子たちの言動に振り回され、くたくたになって結末にたどり着くはずだ。しかし読後は、力強い生命力に包まれることになるだろう。

週刊朝日 2016年7月1日号