姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 与党自民の惨敗と公明の退潮という今回の総選挙の結果は、第2次安倍政権以来の一強多弱の政治の終わりを意味しています。与野党伯仲の中、与党間、野党間、さらに与野党間の緊張感のある合従連衡の政治ゲームが繰り広げられる時代になったということです。

 特定の政党が、低度の投票率で多数を獲得し、政権を独占する事実上の「寡頭制支配」は、安定した政権運営が可能に見えて、代表されず、時には踏みにじられる民意が行き場を失い、テロや暴力といった痙攣的な発作となって噴出することがあります。まさしく安倍元首相は、その犠牲者でした。今回の選挙で、寡頭制的な政党政治の時代の終わりが見えてきました。それが安倍元首相やその主流派閥から蛇蝎のように嫌われてきた石破首相とともに始まろうとしているのは皮肉としか言いようがありません。

 いくつかの世論調査によると、石破内閣の退陣よりも続投を望んでいる割合が70%近くにのぼるのも、これまでの安倍、菅、岸田と続いた一強多弱の政治の膿を出してほしいという有権者の願いの表れではないでしょうか。それを見誤り、石破おろしに自民党内が走れば、自民は完全に有権者から見放されてしまうはずです。裏金や旧統一教会絡みか、あるいは一強多弱時代を取り戻したいという政治家たちが、その元凶の処理にあたる指導者を引きずり落とす。それは、まるで天に唾する政治倫理に悖(もと)る行為ではないでしょうか。

 もし自民が「昨日のようにありたい」のなら、生まれ変わる必要があります。石破政権の帰趨は、それを占うカギになるはずです。自民惨敗でも政権交代までは突き進んでいない民意を考えると、保守与党が生まれ変わり、重要な政策や方針の違いに応じて政策協定を結び、作り直していく、絶えざる「刷新の政党政治」が到来しつつあります。この課題に応えられる政党システムの構築が可能になれば、名実ともに保守合同以来の新たな政党政治の時代の始まりになるはずです。その方向に向かうのかどうか、間近に迫った特別国会での総理大臣指名がカギを握りそうですし、その帰趨は来たる参院選で見えてくるはずです。

AERA 2024年11月11日号