新しい時代のホームドラマ
少々雑な言い方かもしれないが、ふとゲイ設定を忘れさせるほどの、西島と内野の確かで豊かな演技力が本作最大の魅力となっていると筆者は思う。大げさな話ではなく、この2人がテーブルで向かい合って夕飯を食べているだけで、すでにドラマが成立しているのだ。これまで数多くのドラマで見慣れた料理や食事のシーンも、力量と存在感のある俳優が演じるとこんなにも“間”がもち、会話に聞き入ってしまうのだと改めて感じさせる。
同性カップルが主人公のドラマとしては、こちらも映画化された「おっさんずラブ」(※2024年1月に新シリーズ「おっさんずラブ-リターンズ-」がスタート)を思い浮かべる人も多いだろう。また、比嘉愛未と西野恵未の女性カップルによる「食」をテーマの一つとした「作りたい女と食べたい女」(※こちらも2024年初頭に続編が放送予定)も記憶に新しい。
また90年代のドラマになるが、井沢満脚本の「同窓会」(1993年)では、まだ同性愛やゲイカルチャーが社会的に異質なものとして捉えられていたこともあってか、同性愛がショッキングかつセンセーショナルな形で表現されていた。その時代と比べると、ゲイカップルの日常が違和感なくナチュラルに描かれている本作はエポックメイキングとも言える。グルメ要素が盛り込まれているものの、その意味で「きのう何食べた?」は新しい時代のホームドラマと言っても良いのではないだろうか。
もちろん、同性愛カップルにとって、立ちはだかる問題や乗り越えないといけない壁はまだまだ少なくないが、今、私たちが暮らす社会における同性愛に対する認知や理解といったのものが、緩やかではあるがテレビドラマに反映されつつあると言えるだろう。