バブル期に一世を風靡した写真家、元映像プロデューサー、メイクアップアーティスト志望アラサー、元人気芸人。書名そのままに、くすんだ日々を過ごす中年の男女が、敗者復活のきっかけを模索する連作短編集だ。
物語の核となる四十男の造形がいい。かつては人気ドキュメンタリー番組で、大自然と対峙していた。実は演出だったその立ち居振る舞いを、登場人物の誰もが記憶している。男の達観したようなたたずまいと物静かな人柄、確かな写真の腕前のもとに人が集まり、ゆるくつながっていく。さながら温度の低い西部劇だ。
彼らが培ってきたスキルは他人を助け、やがて自分を立ち直らせていく。それぞれの人生が小さく再始動する瞬間が、小さくないカタルシスをもたらす。薄日が差すようなラストまで、読後感はさわやかである。
※週刊朝日 2016年6月17日号