うまく感想を言うためには、まずは入念な「予習」が必要だという(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

「皆さん、熱い思いを語ろうと勢い込んで話し始める。ところが、何も言えない。『どう面白いか』を語ろうとしても、うまくいかない。本人たちがいちばん当惑しているようでした。でも、私は感動しました。どれほどその本が響いているのか、逆によく伝わってきたんです」

 どういうことか。そもそも文学とは、「本来、言葉では表せないもの」を、何とか言葉で表現しているもの。それを「本当に受け止めている」のなら、言葉にならないのが本当ではないか、と頭木さんは言う。

「文学に限らず、映画やテレビドラマでも同じこと。『言葉で言えない感動をした』ということは、まさにその作品が伝えようとしたことが伝わっている、と考えるべきだと思います」

語彙力は関係ない

 SNSなどで「うまく感想が言えない」という人の多くが、原因として自己分析するのが「私、語彙力ないから」というもの。しかし、頭木さんは「語彙力は『感想をうまく言えるか』には関係ないのでは」と話す。

「言葉は、聞いた誰もが瞬間に理解できないと通じません。つまり言葉とは究極のありきたり、どっちみち手垢にまみれてるんです。その数を増やしてみたところで、『うまい感想』につながるわけではないと思います」

 たとえば映画を観て、「面白かった!」しか言うことがなかったとする。でも、そのこと自体がまさに、「言葉にできないものを受け止めた」ということだと頭木さんは言うのだ。

「うまく感想が言えないということは、ちゃんと理解したということでもあるんです」

 逆にペラペラと「うまいこと言えちゃう」のは、せっかくこれまで描かれていないものを描いた作品だったのに、「いままで描かれているようなことに当てはめて」理解してしまったということだと、頭木さんは言う。

「言葉にできない状態は、むしろ大事にした方がいい。気の利いた感想を言おうとして、安易に言葉にしない。言葉にできない状態をむしろなるべく保つことを大切にしてほしいですね」

必要なのは「予習」

 感想が下手でも、気にするな。いや、さらに言えば「下手なことを大切に」するべきだ。そう言われると、少し気が楽になる人も多いのではないか。

 筆者もその一人。もともと理路整然と感想を言うのが苦手だ。ただ、雑誌作りの仕事に携わっていると、取材先や原稿執筆者に対して「何らかの感想」を返さねば、という場面も多い。何か「コツ」はないのだろうか。

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心がけたのは、とにかく「具体的に言う」こと