平たく言えば、藤井はいわゆる「お笑い」を真正面からやるには見た目が格好良すぎるし、歌やピアノも上手すぎる。でも、それが彼の個性であり持ち味だ。『藤井風テレビ』ではそこを生かして、彼のミュージシャンとしての能力やキャラクターを、すべて笑いのためのフリにしてみせた。それによって、藤井のミュージシャンとしての価値を損なうことなく、自然な形で彼をコントのメンバーに組み込むことに成功した。
触るものすべてを黄金に変えてしまうギリシア神話に登場するミダス王のように、藤井が動けばすべてが音楽になる。そんな藤井のとめどなくあふれる音楽的センスを、スタッフが一丸となって笑いに落とし込んでいた。
シソンヌとヒコロヒーは、最近の若手芸人の中でも突出した演技力と落ち着いた雰囲気のあるメンバーである。彼らのかもし出す空気は藤井の世界観とも見事に調和していた。
コントだけでなく、藤井が持ち歌を歌うパートも設けられていた。ここで藤井のことをよく知らない視聴者にも「やっぱりすごい人なんだ」と思わせることができる。彼の歌声にはそんな問答無用の説得力がある。
『藤井風テレビ』は見ていてワクワクする面白さがあったし、少し懐かしい感じがした。往年のテレビにあったような「音楽と笑いの融合」が、高いレベルで実現されていたからだ。こういうことができる限り、テレビはまだまだ大丈夫だ。
(お笑い評論家・ラリー遠田)