中国にいる北朝鮮関係筋によると、北朝鮮側には早期に人を入れ替えたい意向がある。労働者を帰国させた後に交代要員の受け入れを中国側に断られれば、外貨稼ぎに支障が出るため、まず交代要員を先に中国に送り出したいが、中国側が明確な態度を示さない状況が続いてきたという。
それでも北朝鮮は滞在が長期にわたる労働者を優先的に帰国させなければならず、コロナ禍後、中国の北朝鮮人労働者は3万人ほど減ったとみられる。
工場関係者によると、帰国という「晴れの日」に着飾るため、貴重なおこづかいできれいな服を買う労働者が少なくない。「こんなにかわいい服を着るのは人生で初めてです」と話し、ほほえんだ労働者もいた。
丹東市では7月、帰国のバスに乗り込む直前の女性労働者らが楽しげに談笑していた。国境にかかる橋を渡るとき、どれだけうれしかったことだろう。
北朝鮮北部では7月下旬、大規模な水害が起きた。被害は深刻で、復旧作業や新たな住居の建設がいまも進んでいる。中国にいる北朝鮮人労働者にも募金が呼びかけられた。中国で建築資材を調達するのに使うといった説明があった。
水害復旧に寄付
遼寧省の飲食店で働く20代後半の北朝鮮人女性は8月、100元を寄付する用意をしていた。同じ職場で班長を務める同僚が300元と申し出たため、金額を合わせることになった。厳しい環境のもとで倹約に努めてきた彼女たちにとって大きな金額だ。
金正恩総書記は複数回にわたって現地入りし、被災者に寄りそう姿勢を強調している。朝鮮中央通信によると、正恩氏は8月の視察先での演説で、住宅の復旧を終えて生活が安定するまで少なくとも2~3カ月かかると述べていた。その後、約1万3千人の住民を平壌に避難させて自らが出迎えるなど、慈悲深い指導者像をアピールするのに余念がない。
演説は専用列車の中で行われたが、その際の写真には列車内に積まれた高級車が写り込んでいた。韓国メディアによると、ドイツのメルセデス・ベンツの最高級モデル「マイバッハ」の多目的スポーツ車(SUV)と推定される。北朝鮮へのぜいたく品の輸出を禁じる国連安保理の制裁決議に違反するとの指摘があがっている。
正恩氏は演説で人道支援を表明した国や国際機関に謝意を表しながらも、被害の復旧で頼るのは「我が国家の潜在力だ」として、外からの支援を受け入れていない。足もとでは外国での労働を強いている自国民から搾取を続けている。(朝日新聞瀋陽支局長・金順姫)
※AERA 2024年10月28日号