「リボルビングドア=回転ドア」はアメリカでは人脈の構築や収入増につながる有効なキャリアステップと位置付けられ、日本でも浸透しつつある(写真:Getty Images)
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 リボルビングドア=回転ドアを通るように、官公庁と民間企業の間を人材が流動的に行き来する状態を指す「リボルビングドア」。官民を越境するキャリアの魅力とは──。AERA 2024年10月28日号より。

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 変化の激しい時代。官公庁にも迅速な対応力や高度な専門性が求められる中、官民の垣根を越えて活躍できる人材を育成する動きが出ている。

 病児保育などを手がける認定NPO法人フローレンス(東京都千代田区)。官民の人材往来を推進し、政策提言にも積極的な団体だ。2020年以降、霞が関官僚を辞めてフローレンス職員に転身したのは5人。このうち1人は法務官僚を経てフローレンスに転身して勤務した後、こども家庭庁に転職した。これとは別に、フローレンスからこども家庭庁に転職した職員も1人いる。

 駒崎弘樹会長は「市民のニーズや実態を把握し、専門スキルも持つ民間と、制度設計と運営のプロフェッショナルである官公庁がタッグを組むことで、スピード感を持って社会をより良くアップデートしていくことができる」との考えを打ち出す。

 この方針に基づき、19年に政策シンクタンクチームを団体内に設置。現役官僚が国家公務員との「兼業」の立場でメンバーに加わり、官民混成で政策を議論するベースを築いた。現在は新たに加わった官公庁出身のスタッフらによって、よりスピーディーに質の高い政策提言を行う「政策提言チーム」を発足。さらに22年度には、設立以来蓄積してきた政策提言のスキルを団体の外にも広めようと、「政策起業道場」を開設した。このチームと道場を駒崎会長とともに率いるのが、20年に厚生労働省から転身したフローレンス代表室長の米田有希さん(45)だ。関係府省や国会議員に「こども宅食」の事業化や「日本版DBS法」の必要性を提言して実現するなど、多くの成果を収めている。

 米田さんは約19年間の厚労省在職中、主に薬事行政に従事。特に印象に残るのは、「薬事工業生産動態統計」の担当係長だった4年間だ。米田さんは紙の調査票での回答が多く、回収・集計方法が非効率で、回答率も低かった同統計の改善に向き合う。原則オンライン回答とし、それまで製薬企業などの本社と工場に調査していたのを本社に一元化するなど大幅な改善を行った。こうした改革が奏功し、回答率は9割超にはね上がり、より実態に近い統計データを得られるようになった。

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