たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 ここで気をつけなければいけないのは、これらの課題をすべて克服して、全体の経済規模がようやく現状維持できるということだ。経済がこれまでのように「成長し続ける」とか「株式投資はインフレ対策になる」といった楽観的な前提は、今後の人口減少社会を見据えると非常に無責任であると言える。

 そして、もう一つの要素である「投資家の需要」についても考えなければならない。確かに、現在NISAによる積み立て投資を始める人が増え、株を買う人が増加しているため、株価上昇圧力がかかっている。

 しかし、いつかは積み立てを崩して現金化する時が来るだろう。40年後に定年を迎えたとき、多くの人が株を売り始めるとどうなるだろうか。新たに社会人になる人口は大幅に減っているため、株を買いたい人は少数しかおらず、売りたい人が多数派になる。このとき、安く売りたくないと思っても、生活資金が必要であれば売らざるを得ないという状況に直面する。

 今から40年前、年功序列や終身雇用制度に対する疑問の声は少なかった。初任給が低くても、将来は昇進して給料が上がるものだと信じていたからだ。しかし、40年経った今、「こんなはずじゃなかった」と嘆息する人も多い。会社の人口構成がいびつになり、上が詰まっていて昇進も昇給も見込めないという現実に直面している。

 この人口構造による問題が、賃金の世界から投資の世界に移ることを僕は危惧している。40年後に株を売るとき、「こんなはずじゃなかった」と言わなければ良いのだが。

AERA 2024年10月21日号

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