カラオケで最初に歌うのはフランク・シナトラの「New York, New York」だ。彼の絶唱を聞くとみんな静かになる。ジャジャーンカラ京大BOX店で(写真/楠本涼)

 アンドレアは博士論文を書き上げた2010年に再び日本にやって来る。何に惹かれたのか、「京都が大好きで、日本学術振興会のポスドク(期限付きの研究者)に応募した」と言う。博士論文の調査で京都に滞在するうちに、古都に魅入られたのだろう。ポスドクの2年間は、生活に余裕があったのか、研究に熱中するのと同じぐらい、全力で京都生活を楽しんだようだ。

「日中は鴨川べりに座って本を読み、夜は昭和っぽい居酒屋でよくおしゃべりをしました」

 それだけではない。今も作曲を続けているほど音楽好きの彼に、こんなこともあった。

「よく行くロックバーがあって、そこのオーナーが年に1回、ライブハウスを借りて行うイベントでボーカルとして出演したりしました」

 この時期は「心霊スポットと観光」をテーマに研究を続けていたが、その研究の調査中に現在の研究につながる人物に出会う。

「調査で親しくなった女性から突然、『私の姪(めい)は23歳で首吊(つ)ってあの世に行けなかったから、霊能力者にお願いして除霊を……』なんて告白されました。とても重い話で、真剣に考えているうちに、私はイタリア人なのだから、日本の除霊だけでなく、エクソシストの悪魔祓いとの比較研究をしてみようと決めたのです」

 医療が発達した社会で、なぜ憑依という現象(症状)が起こるのか……。だが調査は難航した。除霊する人に話を聞けても、除霊を受ける人には会えないのだ。光明が見えたのはそれから2年ほど経った頃だ。ある研究会で、「それなら賢見神社を紹介するよ」と言われたのである。冒頭で紹介した悪魔祓いを受けるマリアと、故郷のイタリアで出会ったのもこの頃だった。

(文中敬称略)(文・奥野修司)

※記事の続きはAERA 2024年10月21日号でご覧いただけます

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