イタリア東方学研究所(ISEAS)の研究企画代表として運営にも関わる。京都にいる著名人の講演会を月1回開催。講演会後の懇親会ではドイツ語、イタリア語、フランス語、英語、日本語が飛び交っていた(写真/楠本涼)

大学で日本語の勉強 地獄道に興味を持つ

 それにしても、悪魔祓いや憑依といった精神世界のどこに興味をいだいたのだろう。

 アンドレアはイタリアのベネツィア出身だが、育ったのは「水の都」で知られる観光地の島ではなく、橋を渡った先にある「工場地帯で労働者の町」マルゲーラである。母は学校の教師で父は会社勤めの共稼ぎだったから、もっぱら彼を育てたのは祖父母だった。元公務員の祖父は、休みの日はオルガニストとして教会などで弾いていて、普段から幼いアンドレアにクラシック音楽を聞かせて曲にまつわる物語をよく語ってくれたという。その影響で音楽は彼の人生の一部になっていくのだが、高校生になると反抗期もあってパンク・ロックに傾倒していった。アメリカのロックバンド「パール・ジャム」に惹(ひ)かれた彼は、自ら仲間と一緒に「NOIR Inc.」というバンドを結成する。黒を意味する「ノアール」をつけたのは、メンバーは黒が好きで黒装束だったからだ。

 やがて地元のベネツィア カ・フォスカリ大学に進学するが、高校は理系なのに文系の外国語学部を選ぶ。その理由がふるっていた。

「イタリアの中で誰も分からない言語を勉強したら、就職とつながるんじゃないか」

 当時はプロのロック歌手を目指して演奏活動をしていたが、「音楽の仕事を続けられなかったら、どこかの会社に就職しよう」と考えていたからだろうか。あるいは中高時代にドイツ語と英語をマスターして外国語の習得に自信があったのかもしれない。選べる言語は中国語か日本語のどちらかで、アンドレアは父に相談した。

「父は、未来を考えて中国語にしなさいと言いました。だから、私は日本語を選びました」

 えっ、父への反抗? アンドレアは「少しね」と照れるように笑った。

 彼の指導教官は日本の宗教を研究する文化人類学者だったから、アジアのさまざまな宗教を学んだ。なかでも仏教に惹かれたという。

「特に興味があったのは仏教の六道(地獄道、餓鬼道、畜生道、天道、修羅道、人道)で、なかでも地獄道に興味を持ちました。だって好きなダンテの『神曲』にも地獄があるんです。だったら地獄について研究しようと。それに、地獄を研究してると言ったらカッコいいでしょ?」

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医療が発達した社会で なぜ憑依が起こるのか