「在日クルド人と共に」が開催する日本語教室。大人から子どもまで、多くのクルド人が日本語を学ぶ。みな、日本語を学ぶ意欲が強い(写真:在日クルド人と共に提供)
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「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。クルド人が多く住む埼玉県川口市と隣接する蕨市で今、クルド人へのヘイトが増えている。ヘイトを絶つには何が必要か。AERA 2024年10月14日号より。

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 人権条例や差別問題に長年携わる師岡康子弁護士は、「差別煽動の結果、市民の間にクルドの人たちへの偏見が広がり、社会が分断されてしまった」と指摘する。

「隣人から嫌がらせをされるようになったり、街中で勝手に写真を撮られたり、車でひき逃げするヘイトクライムまで起きるなど、クルドの人たちが日常的に攻撃されており大変危険な状態です」

制裁科する法整備必要

 外国人への不当な差別的言動に対しては2016年6月、「解消が喫緊の課題」とする「ヘイトスピーチ解消法」が施行された。師岡弁護士は、ヘイトスピーチ解消法は「差別的言動」の定義を置き「許されない」と規定し、国および地方公共団体が外国ルーツの人たちに対する差別解消に取り組む責務を日本ではじめて定めた点は大きな意義がある、と言う。

「しかし、明確な差別禁止規定や制裁規定がないため、抑止する力が弱く、解消法制定後もヘイトスピーチもヘイトクライムも止まりません」

 ヘイトスピーチは、マイノリティーの基本的人権を侵害し、矛先を向けられた側の尊厳を削り取っていく。

 師岡弁護士は「ヘイトスピーチをなくすには、最低限、差別を禁止し、違反した場合に制裁を科する法整備が必要」と説く。

 本来、人種差別撤廃条約などの国際法上、日本は差別を禁止し、終了させる法的義務を負っている。神奈川県川崎市は、ヘイトスピーチ解消法を法的根拠として、「差別のない人権尊重のまちづくり条例」を19年12月に制定した。そこでは、外国ルーツの人々に対する解消法に定められたヘイトスピーチが公共の場で集団などで行われた場合、市長が止めるよう勧告、命令を出しても繰り返す悪質な場合に限定し、50万円以下の罰金という刑事規制の対象とした。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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