AERA 2024年10月14日号より
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 物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年10月14日号より。

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 この原稿を書いている当日、大谷翔平が米メジャーリーグ史上初の「50本塁打&50盗塁」を達成した。毎年のように「メジャーリーグ史上初」を作り続ける彼だが、その根底には高校時代の恩師、佐々木洋監督から教わった「先入観は可能を不可能にする」という教えがあるという。この言葉はスポーツ界に限らず、他の分野にも当てはまる。特に、僕が関わっていた金融の世界でも、先入観は大きな障害になりうるのだ。

 例えば、2020年4月、ニューヨーク取引所で起きた出来事。前週末に18ドルで取引されていた原油先物が急落し、0ドル近辺にまで達した。これは買い時だと考えた投資家たちが、大量の原油先物を購入したが、価格は0ドルで止まらず、最終的にマイナス40ドル近くまで暴落。多くの投資家が大きな損失を被った。「価格がマイナスになることはない」という先入観が彼らの判断を誤らせたのだ。

 先入観とは、過去の経験や一般的な考えに基づいて現実を判断することであり、その結果としてリスクに気付けないことがある。この「先入観のワナ」は、特殊な商品先物市場だけでなく、株式市場でも同じように潜んでいるかもしれない。

「若いうちからNISAで株式に分散投資しておけば、40年後には資産が増えているはずだ」。そう思って、投資を始める人は多い。

 株式投資はインフレから資産を守る手段として推奨され、長期的には株価が上昇するとも信じられている。果たして、本当に長期的に株価は上昇するのだろうか。経済は成長し続けるのだろうか。先入観にとらわれずに、一度立ち止まって考えてみるべきだ。

たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 そもそも、株式投資の利益はどこから来るのか?

 それは、主に二つの「財布」からやってくる。一つは投資先の企業の財布だ。例えば、トヨタ自動車の株を買ったとしよう。トヨタ車が売れて業績が伸びると、トヨタの利益の一部は、株主への配当として分配される。

 そして、二つ目は他の投資家の財布だ。トヨタの業績が伸びなくても、株を買いたい人が増えれば株価は上昇し、その差額で利益を得ることができる。この利益は株を高値で買ってくれた他の投資家の財布から来るものだ。

 つまり、株価は企業の業績と投資家の需要で決まる。

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