磯野カツオは41歳。電機メーカーの営業職にある。そのカツオが途方に暮れている。84歳だった父の波平が庭の盆栽に頭をぶつけて急死したのだ。動転している母のフネに代わって、保険証や当座の現金をとりに実家に戻ったカツオは呆然とした。〈サザエ姉さんったら、なんでゴミ屋敷になるまでほっといたんだよ!〉
 渡部亜矢『カツオが磯野家を片づける日』のサブタイトルは「後悔しない『親の家』片づけ入門」。あの『サザエさん』の磯野家の30年後を例に「実家の片づけ」という難問の解決法を解説したユニークな実用書である。
 磯野家の面々の今日の姿が興味深い。独身の転勤族で、本社の係長として久々に東京に戻ったカツオ。念願のマイホームを手に入れるも、マスオの勤める商社が円高不況で減給となり、ローンを払うためパートに出たサザエ。アメリカの大学院に通う息子のタラオの学費もあり、54歳になったいまはコンビニの店長代理として大忙しだ。ワカメは39歳。外資系企業のキャリアウーマンで3歳と5歳の娘がいるが、夫は中国に単身赴任中。一人っ子の夫の両親の世話もあり、綱渡りのような毎日だ。
 って、そういうことを楽しむ本ではないのだが、ここには昭和の家族が直面する現実がある。体力や気力の衰えでゴミ屋敷化した実家。ものを捨てない親とのいざこざ。貴重品の捜索。遺品整理。
 ちなみに老親にいってはいけないNGフレーズは次の三つだそう。
 (1)捨てない価値観を〈「いつか使うって、いつよ」「どうせ使わないんでしょ」〉などと否定しない。(2)親を主体にして話そう。〈「荷物を遺されて困るのは、私なんだよね」「片づけをしてあげてるのに」〉などはダメ。(3)〈「通帳どこ?」「権利証は?」〉など、いきなり財産の話をしない。
 ゲッ、全部いいそう! 全住宅の7軒に1軒が空き家といわれる今日。〈実家の片づけは、少子高齢化社会の到来で、日本人が初めてぶつかる最大級の社会問題〉と著者はいう。うちだけじゃないと知るだけでも意味があるかも。

週刊朝日 2016年5月27日号