三宅香帆さん「半身でコミットすれば、仕事が自分のすべてにはなりません。仕事や家事や趣味や、さまざまな場所に居場所ができれば、たとえ仕事で失敗しても『仕事は仕事』と思えます」(写真・工藤隆太郎)
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 今年4月に出版された『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が15万部超のヒットとなっている文芸評論家・三宅香帆さん。京都大学大学院からリクルートに入社し、「本を読むために会社をやめた」という三宅さんに、就活体験や働き方の変遷、キャリア観について語ってもらいました。発売中のアエラムック「就職力で選ぶ大学2025」(朝日新聞出版)より紹介します。

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 幼いころから本の虫で、人生の節目にはいつも本があったという三宅さん。大学進学時に京都大学文学部を選んだのも、本好きゆえだと話す。

「好きなことを勉強したいと文学部を志望しました。でも理系の両親からは『文学部だと就職先がないよ』と反対されて。そこで、身も蓋もないんですけれど、偏差値の高い大学だったら文学部でも就職できるだろうと、京都大学を目指しました。当時、司馬遼太郎の『燃えよ剣』をきっかけに新選組にはまっていたこと、オープンキャンパスで訪れた京大の雰囲気の良さにひかれたことも大きかったです」

 大学で研究の楽しさに触れ、大学院では古典文学を専攻する。修士課程2年のときには、ブログをきっかけに『人生を狂わす名著50』で書評家としてデビュー。その後、新卒でリクルートに就職した。

「本を出版したことで、自分のやりたいことは、エビデンスが重視される研究ではなく、自分なりの解釈を自由に発信することだと気づきました。大学院で研究を続けながら書評の仕事をすることも考えましたが、研究者の世界は二足のわらじを履くことは難しい。それなら一度社会に出て働いたほうが、書評家としてのキャリアにつながるかなと思い、副業ができる企業への就職を選択しました」

就活で重視したのは「しっくりくるか」

 就職先に選んだリクルートはIT分野に強く、本や文学のイメージはあまりない。

「実は大学3年のときに就職か大学院進学かで悩んで、インターンシップに参加しました。そのときは漠然と『文化に関わるところ』と考えて、広告会社や出版社を中心に、新聞社や文部科学省も受けてみました。インターンシップでは楽しいこともあったのですが、仕事として考えるとしっくりこなくて、就職ではなく研究の道を選びました」

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入社することは、その会社の価値基準を受け入れること