作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は高市早苗の敗北が示すものについて。
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高市早苗総理・総裁がギリギリのところで誕生しなかった。
これで高市さんは、土井たか子さん、小池百合子さんに続いて3人目になる「総理の座に最も近づいた女」になった。というより、この3人の中で最も総理の椅子に近づいた、ほぼ座りかけたところまでいった、初めての女である。
2016 年のアメリカ大統領選、ドナルド・トランプに負けたヒラリー・クリントンは「(大統領という)最高で最も困難な『ガラスの天井』は打ち破れませんでした」と演説した。女性が大統領になるには、まだまだハードルがある、という敗北宣言だった。ヒラリーさんにも「ガラスの天井」ってあるのかぁ〜とあの時はモヤモヤしたものだけれど、今回の高市さんの場合はどう考えればよいだろう。
正直、今回の高市さん、「女だから負けた」という感じが一切しない。こんなにもガラスの天井感ゼロだと思わせてくれる女性はいないほどに、「女だから」という悔しさゼロである。座りかけたとたんに、「せーの」と椅子を引かれた感はあるが、不思議に悲壮感はない。
それは高市さんが女のガラスの天井に負けたのではなく、どちらかといえば、自民党のなかにある「常識的な感覚」に負けたからだろう。憲法改正への強い意欲、メディアへの厳しい姿勢、隣国への挑発的態度など、右寄り過ぎるイデオロギーに、自民党のなかにあるフツーの人のフツーな感覚が勝った。高市さんが“まさかの”逆転負けをしたことで、「自民党って、まともじゃん」と、どちらかといえば反自民だった私が思うほどに、女であることよりも極右であることが警戒されたようだ。
第2次安倍政権が誕生して12年。安倍晋三さんが亡くなって2年。この国は長い間ずっと安倍さんの思惑というものに、うっすらと覆われ続けてきたように思う。安倍さんの思惑のなかで、この国はいろいろと失った。メディアの自由も、社会への信頼も、未来への安心も、隣国との親密な関係も、歴史への知というものも。私たちの社会は全体的に小さく、乾き、狭く、冷たくなったように思う。