深セン日本人学校の校門に手向けられた花束=2024年9月22日、中国・広東省深圳市
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 中国・深セン(センは土へんに川)で、日本人学校に通う男児が刺殺された。在中国邦人の安全をどう守るのか。いま、中国社会はどうなっているのか。興梠一郎・神田外語大学教授(現代中国論)が語る。AERA 2024年10月7日号より。

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 中国・深センで起きた日本人男児の刺殺事件をうけて今後、在中国邦人の安全をどう確保するかは、大きな課題でしょう。単身赴任する人は「日本人がいる」とわかるような場所に行かないなどの注意が必要ですし、子どもなど家族を帯同することは相当なリスクを伴うことを覚悟すべきでしょう。企業側も中国でビジネスをしたいのであれば、「現地に駐在しなくてもビジネスができる仕組み」をどのように整えるか、などが早急に問われてくる。いまはそれほどの局面だと思います。

 前提として、不況を背景に「社会への報復感情」が蔓延する中国はもう、「私たちが慣れ親しんだ中国」ではありません。まずその変化に気づくことです。

 中国はいま深刻な不景気にあえいでいます。若い世代の失業率は約19%。しかもここには農村から来た出稼ぎの人は含まれていません。

習近平の「戦闘モード」

 仕事がない、結婚もできない。自暴自棄になった人たちの「社会に報復してやる」といった怨念がくすぶり、それが弱い立場にある子どもにも向けられる。そんな背景が存在する可能性も見逃すことはできません。

 もう昔の中国ではないと言えるもう一点は「米中対立」です。投資が欲しい中国はアメリカと激しく対立することはなかった。でも習近平体制になって以降、台湾周辺で激しい軍事演習を行ったり、ウクライナ戦争では公然とロシアを支援したり、米中対立も日中対立もまったく辞さない、完全な「戦闘モード」へと変わりました。米中が対立すれば当然、アメリカの同盟国である日本とも対立する。政治的にはもはや、中国に住む日本人が経験したことのない「冷戦」の最中にいるんです。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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「反日感情」を考えることも重要