その昔、ふるさとはウサギを追ったり小ブナを釣ったりする場所だった。いまはそんなんじゃありません。じゃあどうなのかが手に取るようにわかるのが『イナカ川柳』。副題は「農作業 しなくてよいは ウソだった」。テレビ情報誌「TV Bros.」の投稿欄から生まれた単行本だ。
〈漁師町 スナック、鏡月 ハイライト〉な海辺の町や〈道ゆかばネギネギネギネギ たまにイモ〉の農業地帯はまだよいが、それは田舎の一部にすぎない。
田舎といえば、どこへ行っても同じなのがロードサイドの風景である。〈ダイエーが サティになって 今イオン〉〈郊外に 行けば行くほど ブックオフ〉というね。〈チェーン店 どっちを向いても チェーン店〉という投稿には〈右ははるやま、左はアオキ〉という但し書きがつき、すると生活もみんな似てきて〈しまむらの服着て今日も しまむらへ〉。
では商店街はどうなったかというと、〈学校の 利権で生きてる洋服店〉が残る一方、〈店頭の カットモデルが シブガキ隊〉だったり〈勝算の ないタコ焼き屋が またひとつ〉できたり。
村落部では〈廃校を オシャレにしたがる 仕掛け人〉が暗躍するが、結局は〈移住者の オサレなカフェが 廃屋に〉〈山の中 アウトレットが 夢の跡〉という厳しい現実が立ちはだかる。
そして、この少子高齢化である。〈ラブホテル 潰れた後に ケアハウス〉〈いつの間に そこいら中に デイケアが〉な光景は当たり前だし、だんだんそこはあの世化してきて〈パチンコ屋 潰れた後は 葬儀場〉〈霊園と 老人ホームと ガンセンター〉。
〈国滅びてイオンあり──。今、日本の田舎はとんでもなく荒んでいます〉と巻頭言はいう。〈そんなディストピアと化した田舎に向けて、東京のテレビは「恵比寿の美味しいお店」など、今日も能天気な電波を発信しています〉
だよね。「ふるさとを壊したやつは都会人」なのかもな。自虐で笑わせながら時に光る批評性。「あるある」感に笑いがひきつる。
※週刊朝日 2016年5月6日―13日合併号