イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 数年前にベルギーへ行った。フライドポテトの本場らしい。居酒屋でとりあえずビールとポテトを頼んだら、「フリッツ!」と店員がポリバケツのような巨大な器をドーンと置いた。フライドポテトを『フリッツ』と言うらしい。「ジャガイモ屋か」。見れば周囲の客もそのバケツの中のものを貪っている。食べてみた。「あー!」。同席の者が一斉に「あー!」と言って黙々とポテトを食べ続け、あっという間に空になるバケツ。「フリッツ!」。また来た! 知らぬ間に誰かがもうひとつ頼んでしまったようだ。食った食った。あくる日、もうポテトは見るのも嫌だったが「あー……フリッツ!」と誰かがまた頼んだ。「あー!」と言いながら顔を洗うようにポテトを浴びる。一行は「あー、あー!」言いながらフリッツに魅了され続け、おかげでベルギーの思い出の8割は芋の揚げたやつだった。「あー!」

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!

週刊朝日  2022年2月11日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?