「友だちは一人もいませんでした。留学生の寮に住んでいて、パーティーやイベントもあったんですが、まったく参加しませんでした。なぜだろう……学業に追い詰められていたし、余裕がなかったからかなぁ」
それでも半年がたち、キャンパスには春が訪れた。たくさんの新入生がサークルに勧誘される春がきた。
「ぼくも勧誘されて、ダンスサークルに入部しました。ダンスは初心者でしたが、韓国や中国からの留学生も多いサークルで、日本語が下手なぼくを助けてくれるんじゃないかな、と思って決めました」
期待通り、あっという間に友だちが増えた。ダンスの発表会に参加し、学園祭のステージにも立った。
「入学したばかりの自分は、自分がこのステージに立つなんて想像もできなかったと思います。踊るって楽しい、パフォーマンスするって最高だと思いました。ダンスサークルの日々がなかったら、いまの自分は絶対にありませんでした」
2年生になると、大学の授業選択の視野も広がっていった。
「経済学部を選びましたが、正直、すごく経済学を学びたいと思っていたわけではなかったです。将来的にはコンサルティング会社や銀行で働きたいという漠然とした希望があったので、だったら経済学部かな、という感じ。でも実際に入学してみると、経済学部以外にも受けたい授業がたくさんありました」
語学をもっと学びたいと考えた。
「少し余裕ができたので、文学部の人たちに交じって韓国語の授業を受けました。文学部の授業は単位要件には関係がないんですが、授業を受けることはできたんです」
大学の資源を利用しないなんてもったいない!
経済学部の勉強だけでも相当な量で苦労したというが、さらに他学部にまで学びを広げていったそのストイックさに驚く。
「そうですか? ぼくはそれまで独学で韓国語を勉強していましたが、大学では専門の先生から授業を受けられるんです。学費は払っているのだから、大学のリソースを使わないのはもったいないですよ。大学図書館にもたくさん通いましたし、ぼくは学費の元がとれるくらい、大学の資源を使い倒しました(笑)」