しかし、内心ではロシアは「悪くない結果だった」と受け止めているのではないかと私は思う。なぜならロシアの理事国復帰に、83もの国が賛成票を投じたからだ。
ロシアの理事国資格停止を決めた22年4月の決議採択の際には、24カ国が反対した。1年半後、その3倍以上の国が復帰に賛成したことになる。
国連加盟国数193の過半数97には届かなかったものの、それに近い数の国が「ロシアに人権理事国の資格あり」と判断したことに、ロシアは意を強くしただろう。もともと、本気で当選できるとは考えていなかっただろうし。
具体的にどの国がロシアの復帰に賛成したのかは不明だ。なぜなら、通常の国連総会決議案への投票とは異なり、人権理事会の理事国選挙は秘密投票で行われるからだ。
公開投票よりも秘密投票の方がロシアへの支持が増えたという事実は、深刻な意味を帯
びている。
ロシア外務省が声明で用いた「圧力」や「脅し」という言葉が適切かどうかはともかく、欧米の主要国はロシアの復帰に賛成票を投じないよう他国に働きかけていた。公開投票の場合、そうした大国の意向に配慮した投票行動を取る国が一定数あることは、否定できない事実だ。
つまり、公開投票でロシアの資格停止に反対した国数の24よりも、ロシアの復帰に賛成した83の方が、より国際社会の本音を反映した数字である可能性が高いと言えるのだ。
一方で、83カ国すべてがロシアのウクライナ侵攻を支持していると考えるのも早計だろう。
83という数字があぶり出したのは、米国に代表される西側諸国が人権を振りかざして他国の内政に口を出す「上から目線」や、相手国との関係次第で人権を持ち出したり持ち出さなかったりする「二重基準(ダブルスタンダード)」に対して反感を抱いている国が多いという実態ではないか。
ロシアは23 年10月の投票を前に「人権理事会が、特定の国々による政治的意思に奉仕する道具と化す傾向を強めるのを防ぐことが重要だと考える」と主張して、支持を呼びかけた。
要は、欧米が人権を振りかざして新興国や途上国に圧力をかける風潮に歯止めをかけるためには、ロシアが理事国に入っていた方がよいという理屈だ。これがある程度受け入れられた面は否定できない。
ここで特に問題となるのが米国の振る舞いだ。中東問題での一貫したイスラエル寄りの姿勢、実際には存在しなかった大量破壊兵器開発計画を理由に始めたイラク戦争、アフガニスタン攻撃で引き起こした膨大な民間人の犠牲などで、これまでアジア、中東、アフリカを中心とする多くの国々に抜きがたい不信感を植え付けてきた。
ロシアはこうした感情を、自国に有利な国際世論作りに利用しようとしている。