「近所の人の人格を否定するようなことはなかったですね。もちろん嫌な人はいましたけど、嫌な人だねってみんなで言い合うことで気が楽になって、それ以上、その人を糾弾したり、追い出したりはしないんです」
そんな「下町イズム」に助けられ、キヨカは父親の自殺未遂などを乗り越えていく。
1987年に『キッチン』でデビューしてから37年。7月に還暦を迎えた。
「世の中からは引いていきたいなって思います。いっぱい働いたから、もういいかなって。メディアに出るような、書くこと以外の仕事を減らしたい。ここで止めないと一生働く羽目になるから、きっちり線を引こうと決めてます」
今後は今までできなかったことをしたいという。
「何かの合間に鬼のように家事をするとか、お昼ごはんを立って食べるんじゃなくて、落ち着いてそういうことをしたい。小説は放っておいても書くと思うので、読んでいただけるとありがたいです」
節目の年に発表されたこの小説には、生きるための処方箋がいくつも含まれている。
(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2024年9月16日号