一般の世帯には手が届かないほどに高騰している都心の住宅。都心で狭いマンションに住むくらいならと、周辺の中核都市に居を構えようとする動きが出ている。高騰し続ける都心に対し、中核都市の相場では変化も出ているという。
「都心は到底、無理でした」
都内の会社で働く男性(34)は、振り返る。東京都品川区に一人でワンルームのアパートに暮らしていたが、結婚を機に広い戸建てに住もうと決めた。
予算は4500万~5千万円。だが、都心の戸建ては1億円近くし、予算オーバーで手が届かない。そんな時に不動産会社からの紹介で見つけたのが、さいたま市の物件だった。
2階建て5LDKで、価格は約4千万円。「ドンピシャでした」(男性)。しかも、駅周辺にはスーパーやドラッグストアなどが揃っていたのも気に入った。即決し、引き渡しを終え7月末から住みはじめている。
敷地内には駐車場があり、何より20畳近くある広いリビングが気に入っている。
最寄りの駅から徒歩11分。通勤時間は、今までの倍近い約1時間かかるが「許容範囲」と笑顔で話す。
「家の屋根が大きいので、そこで太陽光発電をしたいと思っています」
東京から隣県へ――。
いま、この男性のように、千葉、埼玉、神奈川の周辺3県の中核都市で戸建てを買うファミリー層が増えている。
「背景にあるのが、中古マンションの高騰です」
こう話すのは、不動産販売大手の「オープンハウス」営業推進部次長の山口靖博さんだ。山口さんによれば、10年ほど前までは、都心に住む30歳前後の会社員が結婚をすると、まずそれまで住んでいた近くに「中古マンション」を買い、子どもが生まれて大きくなると「戸建て」を買うケースが多かったという。賃貸からはじまり、中古マンションを経て、最後は郊外の戸建て住宅でアガリとなる「住宅すごろく」だ。
「しかし、今では都心の中古マンションは高騰し、戸建てはもともと高すぎて東京には住めません。そこで、最初から郊外に戸建てを買って移り住む人が増えてきました」(山口さん)
オープンハウスの調査では、東京23区から千葉、埼玉、神奈川などに戸建てを買って移り住む若いファミリー層の割合は18、19年には10~15%程度だったが、20年は20%、21年は25%、22年は30%、23年には25%と増加傾向にある。ちょうど、都内の中古マンション価格が高騰していったのと連動しているという。
「その際も、以前であればそれまで暮らしていた場所から比較的近い場所の物件を買うケースが多くありました。それが、近年はSNSで情報を集めて今まで知らなかった街の魅力に気づき、新たな地に住むことを決める方が増えています」(同)
実際、東京周辺3県の中核都市はいま、「ねらい目」だ。