日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年 9月16日号より。
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故郷の兵庫県加古川市で、国鉄(現・JR)の加古川駅から近い路地裏に焼き鳥屋「トリドール3番館」を開いて、2年目に入った1986年の初秋だ。夜がふけて店を閉め、小腹が空いたので帰途につく前、近くのラーメン屋へ寄った。
驚いたことに、深夜を迎えても、店の前に席が空くのを待つ客が並んでいた。入ると、飲み足りないのか、ラーメンを食べる前にビールとつまみを口にする客が少なくない。まだしゃべり足りないのか、楽しげな会話が飛び交う。はっ、として「客は、こういう時間に、こういう場を求めているのか」と頷く。飲食店経営の原点に触れ、「深夜市場」を開拓していく。
85年8月、23歳で「トリドール3番館」を開店した。焼き鳥屋は「鳥」という漢字を使って「鳥なんとか」とする名が多いが、それではつまらないと思って「鳥」を片仮名にした。下に付けるのは語感がいい「ドール」を選び、「長い将来で、こんな店が3軒持てたらいいな」というのが描いた姿だったので「3番館」とした。
加古川市は神戸市の西へ約40キロ、播磨と呼ばれる地域の東部で、南は瀬戸内海に面している。兵庫県警の警察官だった父と母、二つ上の兄の4人家族だったが、中学校へ入ってまもなく父がくも膜下出血で倒れ、2カ月後に44歳で亡くなった。
母の内職と父の年金で生活に困ることはなく、十分に食べることができなかったわけではない。でも、子ども心に「美味しいものを、おなかいっぱい食べたい」と思っていたし、将来への不安はあった。豊かさや立身出世の「成功」への憧れも、芽生えていく。
マーケティング不在開店日だけ賑わってあとは客足が落ちる
大学は自宅から通える神戸市外国語大学の夜間部へ進み、日中はアルバイトを重ねるなか、「店を持ちたい」との思いが生まれる。目標はケーキ屋、珈琲店と替わり、客との対話も楽しめる焼き鳥屋に定めた。