「宝石の王」とも称せられるダイヤモンド。
その透明な輝きから「清浄無垢」を、身に着ける者に「強さ」や「勇気」「幸運」をもたらすとも言われ、世界じゅうで珍重されてきました。
その一方で、流通の独占による価格の高騰、戦費獲得のために採掘された、などの負の歴史も持つダイヤモンド。
「身に着けた者を不幸にする」「思慮深さを失わせる」などと言い伝えている民族もあるようです。
今回は、ダイヤモンドにまつわるさまざまな伝説や逸話をご紹介します!

神秘的な輝きを放つダイヤモンド
神秘的な輝きを放つダイヤモンド

単に身を飾るだけではない、ダイヤモンドは聖なる宝石

ダイヤモンドの語源は、ギリシャ語で「屈しない」「征服されない」を意味する「アダマス(adamas)」。
神秘的な美しさと硬度さから、装身具として、宗教的な護符として、あるいは工具としても用いられてきました。
古くは、お守りとして持ち歩くほか、「解毒作用がある」「病気を予防する」などと信じていた人びともいたのだそう。
人類が最初にダイヤモンドを発見したのはインドと言われています。
18世紀にブラジルでダイヤモンドの採掘が始まるまでは、インドは世界最大のダイヤモンド産出国でした。
ロンドン塔に展示されている「コーイヌール」、ルーヴル美術館に展示されている「レジャン」など、史上に名高いダイヤモンドの多くがインド産で、さまざまな経緯を経てヨーロッパの王侯貴族に伝えられたのです。
そのインドでは、ダイヤモンドは「雷」「火」「太陽」などを意味する言葉で呼ばれていました。また、透明な輝きから「月」に見立てる民族も多かったようです。
ダイヤモンドを意味するイタリア語は、「ディアマンテ(diamante)」。中世イタリアの人びとは、その綴りに「amante di Dio」(神を愛するもの)の言葉を見出し、ダイヤモンドを「聖なる石」だと考えていたのだとか。

時代の変化に翻弄されてきたダイヤモンド

王侯貴族だけでなく、中産階級の人びとも宝石を身に着ける時代が到来したことが、ダイヤモンドの歴史にも影を落としています。
インドからブラジル、南アフリカへと、乱掘と枯渇、そして新たな採掘地の発見という歴史が繰り返されました。
「紛争ダイヤモンド」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。
この言葉の意味は、非合法に採掘され流通しているダイヤモンドが、紛争当事者の資金源になっている問題に所以します。
日本でも、戦時中に政府がダイヤモンドを民間から接収。昭和40年代にその一部が販売されたという記録が残っています。
アメリカなどで人工ダイヤモンドの研究が進んだのも、軍事利用のためだったとか。
その価値の高さゆえに、血塗られた歴史に彩られているのもダイヤモンドなのです。
ちなみに、現在ダイヤモンドが多く産出されているのはロシアやオーストラリア、カナダなど。アフリカ諸国も上位に名を連ねています。

お守りや護符としても愛されたダイヤモンド
お守りや護符としても愛されたダイヤモンド

ダイヤモンドは、実は「希少ではない」?

「炭素」のみで構成された鉱物であるダイヤモンド。
真っ黒な黒鉛と、キラキラ輝くダイヤモンド、同じ炭素でできていることが本当に不思議ですよね。
ダイヤモンドというと「無色透明」を連想しますが、黄色や褐色、ピンクやブルー、紫色などのダイヤモンドも発見されています。
炭素原子の欠損や、窒素やホウ素などの不純物の影響で、こうした色つきのダイヤモンドができるのだそうです。
ちなみに、ダイヤモンドの表面にふれると「冷たい」と感じるのは、熱伝導率が高いから。皮膚が接した部分から、急速に熱を奪うのです。撥水性が高く、水に濡れにくいのも特徴です。
一般に、宝石と呼ばれる石は、美しさや硬さのほか、「希少である」ことが評価されます。
しかし、実はダイヤモンドの産出量はかなり多く、世界じゅうに出回っている総量という意味では、必ずしも「希少」ではないのだとか。
宝石に興味がある方なら、「4C(カラット・カラー・クラリティ・カット)」の基準や、「黄色っぽいダイヤは価値が低い」などの話をご存じかもしれませんね。
でも、宝石との出会いは「一期一会」。
客観的な指標よりも「この石に惚れ込んだ」「この輝きが気に入った」なんて選び方をしてもいいのかもしれません。世界のどこかで掘り出され、目の前まで運ばれてきたそのダイヤモンドの旅路に思いを馳せながら……。
参考:松原聰「ダイヤモンドの科学 美しさと硬さの秘密」(講談社)
ジョージ・フレデリック・クンツ(鏡リュウジ監訳)「図説 宝石と鉱物の文化誌 伝説・迷信・象徴」