NHK連続テレビ小説「あさが来た」ももうじき終わり。朝ドラは「職業婦人型」と「良妻賢母型」にほぼ二分できるのだけれど、これは「婦唱夫随型」。夫が妻のサポート役に徹している点が新しかった。
 古川智映子『小説 土佐堀川』はその「あさが来た」の原案となった歴史小説。いま読むと、原案とドラマの異同が見えておもしろい。
 主人公の広岡浅子は三井財閥一門の娘に生まれた。といっても継室の娘。姉の春とは異母姉妹である。
 ドラマでも白岡あさは男勝りな女性として描かれているけれど、現実というか原案はもっとシビアだ。
 一例が夫・広岡信五郎との関係だ。大阪の両替商・加島屋に嫁いだ浅子の元に九州の炭鉱を買う話が持ち上がる。浅子はおつきの小藤にいった。〈うちは九州へ行く。旦那はんの世話もでけんようになる〉〈旦那はんの身の回りの世話をようして、加島屋を守っておくれやす〉。この言葉の意味は後日わかる。ある日の夜更け、信五郎は小藤にいった。〈戻らずに朝までここで休んでおいき〉〈御寮はんの命令なのや。(略)お前もわても御寮はんの大きさにはかなわんし、逃げることもでけん。あれは日本一の女子や。服従するしかない〉。ふ、服従て……。小藤の妊娠が発覚したときの浅子の言葉も〈加島屋の血筋引いたもんがひとりでもふえるのは、どないに心強いことか。ほんまにめでたいことどす〉。
 結局小藤は4人の子どもを産む。これが明治の現実なんだすな。
 ドラマでは負傷者1人ですんだ炭鉱の事故でも15人の死者を出してるし、しかも浅子は病気がちで、若い頃には肺結核を、年がいってからは乳がんを患い、しかも二つの大病を克服したという壮絶な人生。
 発表されたのは1988年。こういう女性が朝ドラのヒロインになるまでには25年以上が必要だったのだね。タイトルの土佐堀川とは加島屋の前を流れる川の名前。ドラマの上を行く女傑ぶりを堪能されたし。原案の五代様はチョイ役ですけど。

週刊朝日 2016年4月1日号

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