SNSなどではエスカレーターの「片側空け」に関するデマも拡散されている。画像はイメージ(GettyImages)

ネットでは明らかな「デマ」も拡散

 正しい利用法が広まらない状況に問題意識を感じているのは、メーカー側も同じだ。日立ビルシステム広報の小泉佳一郎さんは、埼玉県の条例を紹介したネット記事のコメント欄を見て、あぜんとした。

「片側を歩かれるとエスカレーターが傷むのが早いから、メーカー側の都合で片側空けをやめさせようとしているだけだ」

 明らかなデマが投稿されていたという。

「ウソが平気で書き込まれていることに、とても驚きました。メンテナンスをしていると部品の摩耗の具合を確認できるのですが、片側を歩くことにより摩耗が進むという事実はありません。エスカレーターをどう利用するかについて、ウソに基づいた感情的な議論が生まれないように、メーカー側も、正確な情報を積極的に周知する必要性があると感じました」

 小泉さんらは「なぜエスカレーターを歩くと危険なのか」を解説したホームページを作成。今年5月に公開すると、利用者からさまざまな意見が寄せられたという。

 川瀬さんは、埼玉県や名古屋市に続き、東京や大阪など大都市の首長や行政に、積極的に啓発活動をしてほしいと期待する。

「冗談ではなくて、小池都知事も足をケガして車いすを利用されたことで、ハンディがある生活とはどのようなものか、暮らしやすい社会とはどういうものかについて、少しは感じるところがあったんじゃないでしょうか。大阪万博でも新たなエスカレーターをせっかく設置するのですから、府にもっとPRしてもらいたいですね」

 自分や家族、友人がいつ何時、事故や病気などで川瀬さんと同じような立場になるかは分からない。エスカレーターの空いた側に立っていても「どけ!」と怒鳴られない社会。実現は容易ではないが、誰にとっても、他人事とは言い切れないはずだ。

(國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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