中でも、永岡さんが敬愛するのは京セラの創業者、稲盛和夫。「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という言葉は日々の戒めにしている。最も共感するのは稲盛の経営哲学の根幹にある「利他の心」だという。
「そもそも私自身、一発当てて大金持ちになりたいと考えて起業したわけではありません。日本各地を巡って課題を探る中で、『どこ、そこ?』と他地域の人から言われてしまう地域は特に厳しい状況にあることを知り、こうした地域の応援団を増やし、次世代に残すためにはどうすればいいか、という課題をビジネスで解決したいと考えたのがきっかけです」
起業する前、永岡さんは半年間かけて貯金を切り崩しながら夜行バスで全国を巡り、各地で仕事を手伝ったり、一緒に食事をしたりする中で地域の課題を目の当たりにした。そこで永岡さんが得たのは「経験は誰にも盗まれない」という実感だった。自分の目と耳で確かめ、足で稼いだ唯一無二の経験は、「自分の言葉」に力強さと自信を与えてくれる。
「原点は社会課題の解決」という永岡さんが常に意識しているのが、「江戸時代の経営コンサルタント」とも称される二宮尊徳の「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」や、明治時代の実業家、渋沢栄一の「論語とそろばん」から派生した「ロマンとそろばん」という言葉。いずれも道徳的理念と経済的利益のバランスの重要性を説く格言だが、これが「ソーシャルインパクトの最大化」と「ビジネススケールの拡張」の両輪を回すことに注力してきた永岡さんにはひときわ説得力をもって響くという。
「高い理念や志を持ち続けるためにも、シビアな目線で経営プランをブラッシュアップし続けることは不可欠だと痛感しています」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年9月2日号より抜粋