9月の自民党総裁選に出馬しないことを表明した岸田文雄首相。安倍晋三政権の後始末に追われながらも、安倍氏とその派閥に依存していた3年間だった。AERA 2024年9月2日号より。
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岸田首相の不出馬・退陣会見(8月14日)は空しかった。派閥の裏金事件が発覚した当初から責任を取ることを「思い定めていた」という。であれば、もっと早く引責辞任を表明することができたはずだ。裏金事件の再発防止策としての政治資金規正法改正をめぐって、岸田氏の意向に不満だった麻生太郎副総裁との関係修復に動く必要もなかっただろう。真相は、総裁選での再選をめざす岸田氏が麻生氏自身と麻生派の支援を取り付けたかったのだ。だが、麻生氏の理解は得られず、党内の支持もしぼんで総裁選に出馬したとしても勝てる見込みは立たない。そうした「本音」を隠しての記者会見だから空虚に響くのは当然だ。
ただ、岸田首相の「本音」が垣間見えた場面もあった。「やるべきことを整理して方向性を示すという政治家の意地があった」と述べたのだ。具体的な中身には触れていないが、岸田氏が周辺に語っている心境はこうだ。
「首相在任の3年間の大半は安倍(晋三)政治の尻ぬぐいに追われた。9月末までの残り任期中に経済再生など岸田色のある政策を打ち出してから退任する。それが政治家の意地だ」
確かに、高額献金が批判されてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家との癒着は安倍元首相らの勢力が中心的な役割を担ってきた。資金集めパーティーを舞台にした裏金集めも安倍派が長年続けてきた。さらに最近の物価高につながる歴史的円安も、もとはと言えばアベノミクスによる大規模な金融緩和が原因だ。岸田氏がぼやくのも、うなずける面がある。
岸田首相の「自業自得」
だが、岸田氏は安倍政権下で外相や党政調会長などの要職を歴任。安倍政治の中身に対しては「共同責任」があるはずだ。加えて、岸田政権の3年間、安倍氏とその派閥に依存。裏金事件では安倍政治ときっぱり決別する行動をとろうとしなかった。経済政策でも、アベノミクスからの転換が遅れ、円安を進行させたことは明らかだ。それらの責任は重大である。結局、政権が行き詰まったのは、岸田首相の「自業自得」なのである。(政治ジャーナリスト・星浩)
※AERA 2024年9月2日号より抜粋