展覧会の印象を聞いてみると「すごくよかったです! (展示作品の脇にある)カードに書かれた彼の考えや苦労、絵を描くための努力を知れたことが素晴らしかったです。間近で伊藤潤二の作品とそのプロセスを見て、何か(トーン)を削ったり、修正液を使ったりしていることに、作品を作るのがいかに難しいかを知ることができました。漫画の絵コンテを見られたのは本当に感動しました」と大満足だったようだ。
日本のスティーブン・キング! 仏の出版関係者が語る人気の理由
海外での伊藤潤二の人気について、フランスで翻訳出版をする関係者にも話を聞いた。来日中だったブラジロン社Mangetsu編集長サリヴァンさんに、伊藤潤二がゲスト参加をした2023年1月のアングレーム国際漫画祭において、約180点の原画を展示した展覧会を開いた際の話を交えて聞いてみた。
「昨年のアングレーム国際漫画フェスティバルでは明らかにいい反響がありました。その上、フェスティバルは50周年の記念だったので非常に大きな成功を収めました。フェスティバルの主催者は、これまでに開催した展示の中で最大の成功だったと言っていました。出版社としても、2023年は伊藤先生の本の販売実績の中で最高の年となり、そして、伊藤先生は私たちの出版社で一番売れている作家になりました。Mangetsuというレーベルだけではなく、Mangetsuコレクションを出版している会社のブラジロン社にとってもです」
――どうして伊藤潤二作品はフランスで人気なのだと思いますか。
「私もその質問の答えを知りたいですね。まず私にとって、伊藤先生は最高の漫画作家のひとりです。伊藤先生はホラーの巨匠です。フランスでは、伊藤先生は日本のスティーブン・キングと言われていますが、私としては、スティーブン・キングを超えていると思います。なぜ伊藤先生がフランスでこれほど人気があるのか、明確な答えはわかりません。ですが、伊藤先生はホラージャンルの頂点であり、描かれているホラーが普遍的だからだと思います。私はよく〝グローバルホラー〟と定義しています。社会的ホラー、宇宙的ホラーなど、非常に多くの種類のホラーが作品の中にあります。そして、人々は必ず伊藤先生の物語に共感すると思います。伊藤先生の漫画のページを開く勇気があるなら、国籍に関係なく」と熱く語ってくれた。
伊藤潤二展は残すところあと9日、9月1日で閉幕する。だが、全国巡回が決定していて、市立伊丹ミュージアム(兵庫県)で2024年10月11日(金)から12月22日(日)まで開催される。日本人だけでなく海外旅行者を巻き込んだムーブメントは全国へ波及するのか、今後の展開が楽しみだ。
インタビュー・翻訳/デュボスト・ピエール(デジタルカタパルト)、文/原真紀子(朝日新聞出版)