バスケットボール男子 トム・ホーバスHC:熱い言葉で直接選手たちに語りかけ、女子日本代表を東京五輪銀メダルに導き、男子も48年ぶりの自力での五輪出場に導いた(写真:代表撮影/JMPA)
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「史上最強」と評されたバレーボール男子とバスケットボール男子の両日本代表。躍進の背景には何があったのか。AERA 2024年8月26日号より。

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 身長差がモノをいう競技──バレーボール、バスケットボール──では、日本の男子は世界と伍(ご)して戦うのは難しいと考えられてきた。しかし、バスケットのトム・ホーバス、バレーのフィリップ・ブランの両指導者はこの固定観念を打ち破った。

 男子バレーボールは大会前には世界ランキング2位にまで上昇し、2大会連続で準々決勝に駒を進めた。男子バスケットボールは3戦全敗だったものの、フランスと大接戦を演じるなど、過去最高の戦いぶりを見せた。

「トムとフィリップ」は、これまでの指導者となにが違っていたのか? ふたりの指導者に共通しているのは、身長差を決定的な要因と捉えず、外国勢とのギャップを埋めるアイデアに、オリジナリティーがあった点だ。

 ホーバス・ヘッドコーチ(HC)は、東京大会で銀メダルを獲得した女子日本代表を指導していた時から日本人の「謙虚さ」を問題にしていた。

「私は16年のリオデジャネイロ大会では女子のコーチとして帯同していました。日本のシュートの正確性を見たら、『金メダルを狙える』と思ったけど、そう信じてたのは僕だけだった(笑)。日本人は謙虚すぎるのよ。だから東京大会に向けて、選手たちには自分たちの実力を信じることを強調したんです」

 その意識は浸透し、パリ大会にも出場した宮沢夕貴は「トムさんは、私が自分を信じるよりも、私のことを信じてくれた」と話すほどだった。とかく、高校時代までは指導者に抑圧されがちな女子の選手たちから謙虚さをいい意味で奪い、世界でも通じる技術を持っているという「プライド」を植えつけた。

戦術をインストール

 その手法は、男子でも有効だった。今回、健闘を見せた背景には、八村塁、渡辺雄太というNBAで活躍した選手たちが体格差を埋めたことも大きかったが、「Z世代」の河村勇輝は自分の能力を限定しないタイプであり、ホーバスHCのポジティブ思考と相性が良かった。いい意味で、謙虚ではない世代が日本の中心になってきたことも幸いした。

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適切な分析・戦術の立案があれば、日本は十分に戦える