
河村にとってオリンピックは将来につながる場だけではなく、後悔の舞台ともなった。第2戦、開催国のフランス相手に、残り16秒の段階で日本は4点リードしていた。この時点で勝利の確率は極めて高かったが、相手のスリーポイントシュートに対し河村は痛恨のファウルを犯してしまった。それによってフランスは一挙に4点を挙げ、日本は延長戦の末、敗れてしまう。獅子奮迅の活躍を見せたものの、河村は自らのファウルで金星を挙げるチャンスを逸した。
成功と後悔、フランス戦ではこの相反する要素が河村のプレーのなかに同居した。おそらく、このファウルを彼は一生忘れることはないだろう。しかし、この過失は、「レジリエンス」、強大な反発力となって河村を成長に導くかもしれない。
2024年秋、アメリカに渡る河村の冒険は新しい章を迎える。もちろん、ディフェンス面、そしてプレーメイキングにおける課題もあるが、アメリカでの挑戦はひとりの選手の可能性を広げるだけでなく、日本のティーンエイジャーにも大きな勇気を与えるだろう。小さくとも、世界で活躍できるのだと。
これから始まる河村勇輝の挑戦は、日本のバスケットボール界を大きく変えるポテンシャルを秘めている。(スポーツジャーナリスト・生島淳)
※AERA 2024年8月26日号より抜粋

