6月に閉会した本年の通常国会では安全保障に関わる多くの法律が成立した。例えば、プライバシー権侵害のおそれのあるクリアランス・システムを構築する経済安保情報保護法、自衛隊に「統合作戦司令部」を設置する改正防衛省設置法、英伊と次期戦闘機の開発・輸出について政府間機関を設立する条約などである。これらの法律・条約の問題点の指摘については別稿に譲るが、どれも、憲法上保障された人権を侵害する恐れがあったり、国のカタチを大きく変える政策であったりと、国民的議論が行われてしかるべき政策変更であった。これまでの国会であれば、法律が成立するにしても、野党から慎重意見が数多く出され、国会で論戦がなされ、その様子がメディアでも報道されて、市民社会からも強い反対が起きていただろう。
しかし、今回の国会では、これらの多くの法案に野党第1党である立憲民主党は賛成票を投じたのである。立憲民主党は若干の懸念は示したものの、本質的な議論に踏み込まず、法律はみな短時間の審議で成立している。
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「なぜ立憲は賛成を?」との怒りの声を複数耳にしたため、国会が開催されている時期に、立憲民主党の国会議員の何人かに状況を聞いた。
「政権交代の可能性が高まっているので、そういった法案に反対しないようにとの雰囲気が党内に漂っている」
「反対すると、政権担当能力がないと言われてしまう。」
「いざ政権交代をした時に、“すぐ撤回するんだろうな!”と言われてしまう」
との回答。そして、「でも、法案に賛成したくない議員もたくさんいて、棄権しようかなって言っている議員も結構いるんだよね」とのこと。
これが党全体の状況を示すものなのかどうかは分からない。「政権交代が起きるなんて本気で思ってるの?」という苦笑もあちこちから聞こえてくる。しかし、当事者がそう思わなければ政権交代なんて起きえないのだから、その点はネガティブに評価すべきではない。
しかし、だからと言って、反対なのに反対票を投じない……? 仮にそういった雰囲気が党に漂っているのであれば、実にゆゆしき問題である。
自らの政治信念を捻じ曲げてでも政権交代を実現しようとするのであれば、そもそも何のための政権交代なのか、本末転倒である。