浮名を流した女性は数知れず。別れても相手には恨まれない。「昭和のモテ男」火野正平。公共放送で日本中を自転車で走り回る現在の姿と往年のモテぶりにギャップを感じずにはいられないが、本書を読めば火野の変わらぬ魅力の謎が少しは解ける。
 ハンターのように女性を追いかけていたと思いきや、「もともと向こうから電波を発信されてから、アンテナで捉えて受けに行くタイプ」と語る。感度抜群のアンテナとはいえ、恋愛は受信型というのは意外な一面。気負わず、無理せずを公私で貫く。
 わからないものはわからないと公言し、見栄を張らない。自分にできないことは他者に求めない。良くも悪くも等身大。今よりも「男らしさ」が求められた時代に、ほどよく力が抜けた姿は女性を惹きつける磁力になっただろう。
 男としては火野がいかにして女性を落としていたかが気になるところ。口説き文句も紹介されているが、本書を読み進めると、火野にしか似合わないと諦めてしまうのがモテない男の性かも。

週刊朝日 2016年3月11日号