可能な限り多くの人が、より長く働くことが求められている構造的な働き手不足の時代。子育てや介護もしながら、定年後も働き続ける人も少なくない。それぞれのライフステージに合わせて働き方も生き方も変えていくことが必須要件になりつつある中、企業は多様で柔軟な働き方を認めないと必要な人材の確保がますます困難になるからだ。
企業側も、「辞令交付」のみで済ませる従来の人材配置や異動制度では働き手の納得感が得られにくい状況を認識している。リクルートが昨年実施した調査で、「人材配置・異動に関する制度の変更や、従来のやり方を見直す必要性を感じている」と回答した企業は51.2%と過半数にのぼった。その理由としては「従業員のスキル・経験と現場で任せている仕事内容にミスマッチが生じているため」(46.7%)、次いで「従来のやり方では、従業員の納得感が得られにくくなっているため」(45.7%)が多かった。
内示を断れば降格
とはいえ、冒頭のケースのように転勤や異動の内示を断ると降格されたり、退職に追い込まれたりする現実もある。これは企業にとっても働き手にとっても痛手だ。こうした展開を避けるために大事なのが、「企業も個人も選択肢を増やす」ことだと藤井さんは言う。
企業は異動によってどのようなキャリア形成の道が開けるのかを、異動しない場合と比較して丁寧に説明し、あくまで選択権は働き手本人にあることを伝える。個人も選択権を持つために、働き方やキャリアを会社任せにするのではなく、能動的にキャリアデザインやライフデザインを描き、社外にも転職を含めた選択肢を広げておく必要がある。
「重要なのは、個人のキャリアや働き方に対して個人と会社の双方が関与し合う『働きかけ改革』です。個人と企業側が日頃から対話を重ね、よりよい方向を見いだす努力が不可欠です」(藤井さん)
その上で、藤井さんは「日々の働く意欲の明暗を分けるのは半径10メートル以内の人間関係」だと強調する。
「日常的な職務でかかわる周囲の人たちと、いかに良い人間関係を育んでいくかが、職場での幸福感を左右する肝になります」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年8月12日-19日合併号より抜粋