中堅以上も強い抵抗感
「私は転勤辞令を断るまで夫を説得し続けましたが、世の中には夫に単身赴任されてワンオペ育児を強いられている母親がたくさんいます。その人たちの気持ちを考えると本当につらいし、悲しい。いい加減、会社中心の社会を変えないと日本は衰退するばかりです」
勤務地や職種などの配属先が希望通りにならない状況を指す「配属ガチャ」という言葉。「理不尽」というニュアンスが含まれるが、そう考えるのは新入社員にとどまらない。今や「転勤ガチャ」に抵抗感を示す中堅以上の社員も少なくない実態が、今年4月のエン・ジャパンの調査で浮かんだ。
転勤辞令を受けた場合、「承諾」は8%にとどまり、「条件付きで承諾」が42%、「条件に関係なく拒否する」が21%だった。実際に転勤辞令がきっかけで退職に至った人も3割いた。また、「転勤は退職を考えるきっかけになるか」の質問に対し、約7割が「きっかけになる」と回答。内訳は20代で78%▽30代で75%▽40代以上は64%だった。驚くのは組織に順応してきた40代以上の中堅・ベテラン層でも転勤への抵抗感が強いことだ。
「個人のライフプランや自律的なキャリアを度外視した、『無限定性』を求める働き方は世代を問わず、成立しづらくなっています」
こう唱えるのはリクルートの藤井薫HR統括編集長だ。
「終身雇用」や「年功序列賃金制度」が前提だった時代。働き手は「安定」と引き換えに、会社から「三つの無限定性」を受け入れてきた。辞令一つで転勤に従う「勤務地の無限定性」。残業も休日返上も当たり前という「労働時間の無限定性」。会社が一方的に配属部署を決める「職務内容の無限定性」だ。
しかし、不確実性が高く、低成長の時代には「会社の指示に従ってさえいれば、家族を含めて一生安泰」というわけにはいかなくなった。その背景には日本的雇用システムの限界に加え、「外で働くのは夫、家事や育児は妻の役割という性別役割分業の変化」もある、と藤井さんは指摘する。