「平和の使者」だった日本はどこへ
NATOは最近、これまでの東欧への拡大に続き、アジアへの進出にも熱心だ。ロシアと中国との関係を念頭に、台湾有事にも言及し始めた。フランスなどは慎重ではあるが、明らかに、日本をNATOに引き込む戦略でもある。
今、万一、ウクライナでロシアとNATOの戦争が始まったらどうなるか。それを機に、中国が台湾に手を出せば、それが小競り合い程度のもので本格戦争にはならないとしても、米国の兵力を分散させることになる。NATOとしては、それを回避するために、日本に主力として戦ってもらうことで欧州での対ロシア戦への影響を最小限にとどめるようにしてもらおうということだろう。
万一、そんなことが起きたら、日本は、米軍の下請けとなって、真っ先に中国と戦火を交えなければならない。
先月末に行われた日米外務・防衛閣僚協議で米側が、在日アメリカ軍を「統合軍司令部」として再構成する考えを示したというが、まさにこれによって、米軍の指揮下に自衛隊が入り、その尖兵として戦争を行う仕組みを作っておく意図が読み取れる。
こうした危機的状況を頭に入れた上で、あらためて岸田首相の広島での演説を思い起こすと、なんという無責任、なんという能天気なことか。
本来であれば、戦争を止めよう、軍縮を進めよう、核廃絶に向かって具体的行動を起こそうと力を込めて訴えるべきだった。せめて、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加くらいは宣言できたのではないか。
さらには、差し迫った危機に陥っている戦術核の使用について、「核の先制不使用」を、米英仏露中、さらには北朝鮮に呼びかけることもできたはずだ。
と、そこまで考えて思い出した。
2016年にオバマ大統領が核の先制不使用宣言を行おうとした時に、最も強硬に反対したのが日本政府だという証言を核不拡散問題の当時の責任者だった元米国務次官補が証言していたことを。その時の日本の外務大臣が岸田氏だった。
さらに、現在、「拡大抑止」という名の下に、米国の核兵器に頼る政策の強化を打ち出しているのも岸田氏だ。
この人は、正真正銘の「核兵器依存症」なのだろう。
世界で唯一の被爆国である日本が今や、核兵器依存症になり、核兵器使用に加担していると批判されても仕方ない。
戦後、ホロコーストの被害者の国として、世界中から同情を集め支援を受けてきたイスラエルが、今や、ガザにおいて、パレスチナ人に対するジェノサイドの加害者になって、世界中から非難されているのに似ている。
日本は、もはや「平和の使者」ではなく「核兵器の虜」と呼ぶべき存在に成り下がってしまうのだろうか。
その汚名を返上するためには、私たち日本の国民が、もう一度、核兵器廃絶に向けて声を上げ共に行動するしかない。そのことを強く訴えたい。