平和記念式典であいさつをする岸田文雄首相=2024年8月、広島市

できるはずのない核軍縮

 彼らは、第三次世界大戦の危機、そして何よりも核戦争のリスクがかなり高まっていると懸念を表明した。もちろん、明日にもということではないが、冷戦が終わって、世界が一つになれるという幻想が支配した時期を経て、「文明の衝突」(ハンチントン)の世界がまさに進行中だという。

 米国は、ロシア、中国、イランを敵国だと見做している。しかも、これらの国々とは価値観が異なるから共存できないと考え、彼らが自分たちの考え方を拒否し続けるのであれば、単なる勢力争いをするだけでなく、機会があればこれらを滅ぼすか、あるいは国家分裂させようという意図を持っているようにさえ見える。バイデン政権にも共和党にもそうしたネオコン的な政治家は多いし、少なくとも、ロシア、中国、イランには、米国の意図はそうであると見えている。北朝鮮にとっても同じだ。

 自国の存立が米国によって脅かされるということになれば、自らの身を守るためには何をしても良いということになる。したがって、米国やその連合勢力に対しては、核兵器を使う準備を怠るわけにはいかないということになっているのだ。

 これでは、核軍縮などできるはずはない。

 今、自らの存立危機を最も強く感じているのはプーチン大統領だ。ウクライナ戦争に勝つことは悲願だが、それ以上に、負けたら彼の地位が危ないことは自明のこと。したがって、米国の動きに過剰反応気味になるのは当然だ。

 今のところ、米国に対する攻撃的姿勢は言葉の上だけだが、だからと言って安心はできない。彼は、米国やNATOは隙あらばロシアを潰そうとしていると信じていれば、何らかの勘違いで、米国がついにその動きに出たと判断してしまう可能性があるからだ。

 そんな中、前述のとおり、英国の新首相が核兵器使用を考えていることをプーチン氏は知った。

 また、フランスのマクロン大統領は、ウクライナ支援の国際会合で、欧米諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない考えを表明している。万一NATOがウクライナに部隊を派遣してロシアと一戦を交えれば、NATOとロシアの全面戦争になる。ロシアは、それが自国壊滅の危機になることは百も承知だが、ウクライナから兵を引くということは考えられない。

 英仏首脳の言動は、プーチン大統領の「欧米はロシアを潰そうとしている」という疑念を増幅させるだろう。

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現実味を帯びてきた「核使用」