ちらつかせる「戦術的核使用」

 プーチン氏は核兵器を使用するための条件として、「国の主権や領土保全が脅かされた場合」に限定する考えを示している。6月の時点では、「そういった状況には至っていない」とも述べ、その時点での核使用を否定していた。

 しかし、その後も、事態は悪化の一途だ。

 NATO加盟国は米国製のF16戦闘機をウクライナに提供した。本格運用にはまだ時間がかかるが、制空権を握ってきたロシアから見れば、重大な脅威だ。

 また、6月以降、米国はウクライナに対して、米国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを許可したと発表していたが、ウクライナはそれによって、ロシアの戦略的に重要な軍事拠点の攻撃に成功し始めている。中でも、クリミア半島などにアメリカのATACMS(Army Tactical Missile System)と呼ばれるミサイルシステムによる攻撃が行われていることが注目点だ。日本では弾薬・武器倉庫や石油タンクなどへの攻撃がよく報道されているが、先のNPO幹部の話によれば、それよりも、早期監視レーダーや衛星管制施設への攻撃が重要だという。これらが機能しなくなると、万一、米英仏などが核ミサイルでロシアを攻撃した場合に、これを察知することができず迎撃ができなくなるのだが、12の早期監視レーダーのうち、すでに3基が攻撃により被害を受けたという話だった。

 ロシア側は、最悪の事態として、それに備えることを余儀なくされ、それと同時に、レーダーがないのをいいことに米国などが攻撃をすれば、本気で核を打ち返すぞという強いメッセージを送る必要があると考える。自然な流れだ。

 ロシア軍とベラルーシ軍は6月までに2回にわたり共同で第2段階戦術核演習を実施していると発表された。

 さらに、7月には、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、「ほとんどの核弾頭(ロシアの戦術核兵器)は搬入され、ベラルーシ国内にある。年内に搬入が完了することは確実であり、もっと早くなると思う」「ベラルーシが侵略された場合、即座に反応するだろう」と述べ、核兵器の使用準備完成が近いという発言までしている。

 米国は、ロシアが核を使おうとしていると宣伝するが、筆者はそうはとらえていない。米国やNATOとまともに戦争して勝てると考えるほどプーチン氏は馬鹿ではないはずだ。

 では、どうしてロシアは、そこまで派手に「戦術核使用」をちらつかせるのか。

 それは、米国やNATOの動きが、本気でロシアの壊滅、あるいは国家分裂を狙っていると恐れ、そんなことになれば核を使うぞと警告しているのだ。NATOは今まさにレッドラインを越えようとしている、だからもうこの辺で止めてくれと必死に訴えていると言っても良い。

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日本の「核兵器廃絶」はもう無理なのか