「徳川慶喜を生で見た事がある人 まだギリこの世にいる説」のように、過激さが一切なく知的好奇心を刺激するような内容の企画も多い。

 この番組に唯一保険がかかっているところがあるとすれば、ダウンタウンの番組であるということだ。ダウンタウンが出ているということで興味を持って見る人もいるだろうし、「ダウンタウンが笑っていればOK」という絶対的な価値基準があることの意義は大きい。

 しかし、この番組では、ダウンタウンという保険の使い方も普通ではない。彼らはコンビでも個々人でも笑いを生み出すことができるお笑い界屈指のストライカーだが、この番組では彼らをあえてディフェンダーとして起用している。

 ダウンタウン主導で笑いを生み出すのではなく、スタッフが自ら面白いVTRを作ることに全力を注ぐ。ダウンタウンの2人はそれを見てコメントをする役割に徹している。

「ダウンタウンが面白い」ではなく「ダウンタウンが笑うことが面白い」という構図を作り、それを2人に認めさせたのがとてつもないことなのだ。

『水曜日のダウンタウン』では、一つ一つの企画に創意工夫が感じられ、膨大な手間がかけられているのがうかがえる。予算の面でも、人的資本の面でも、このスケール感で毎週毎週ハイクオリティな動画コンテンツを作り続けられるのは、日本のテレビ局だけだろう。

『水曜日のダウンタウン』はテレビバラエティの1つの理想形だ。圧倒的に面白いものが圧倒的な数字を残しているという事実は、テレビ業界にとって何よりの希望である。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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