春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「灼熱地獄」。

【写真】猛暑のなかの戦い アスリートにも危険信号が

 久しぶりに休んでおます。「います」と書こうとしたのに「おます」になってしまい、それに気づいているのに直そうとする気も起きないくらいの暑さですね。

 みなさん、くれぐれもご自愛ください。手紙の文末に書くフレーズもついついコラムの開口一番に言いたくなる、そんな暑さですよ。

 最近、私は寄席の高座でも「とにかくご自愛ください! いや、あえてはっきり申し上げますと、みなさん、死なないでくださいっ!」とマクラで訴えています。

「みんな若くないんです。客席を見渡す限り若くない。『オレは若い!』と自信を持って言える人、このなかでいますか!?」

 もちろん手は上がらないのです。

「私はお金を払って落語を聴こうという志(こころざし)の人が、一人でもこの地球上から減って欲しくないのです!」

 私の、心からの、偽らざる願い。減るな! 落語ファン! この夏を生き抜け! 寄席の客!

 クーラーの利いた部屋でスマホを片手にアイスコーヒーを飲みながら書いているこの原稿、今回のお題は「灼熱地獄」。「灼」なんて字、初めて書きました。実際に紙にペンで書いてみた。つくりの中のワンポイントは「ヽ」じゃなくて「一」なのか。漢字ってそういうとこあるよね。どうでもいい変なこだわりみたいなの。漢字って、友だち少なそう。

「灼熱地獄」を調べてみると、仏教の教えに出てくる地獄の一つらしいです。仏教? 馬鹿デカい組織がバックにあるんですね、灼熱地獄。担当者はそんなこと考えないでお題出してるんでしょうな。

 ネット調べによると……。

『殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見(仏教の教えとは相容れない考えを説き、また実践する)をした者が落ちる地獄。頭から足まで大きな熱鉄の棒で打たれたり突かれたりして肉団子のようになり、鉄鍋で何度も炙られるのが、6000年も続く地獄』(和楽web)

 ……とな。「肉団子のようになり」? 「鉄鍋で何度も炙られる」?

 バーミヤン? ひょっとしてそこはバーミヤンじゃないですか!? 

 すかいらーくグループじゃないですかっー!?

 火力をフルにして、カッカ、カッカ、カッカと鉄鍋を振るう音がこだまする、厨房みたいな地獄。

「暑いっすねー」「そうだなー」とバイトの鬼が額に汗しながら気だるく言葉を交わす地獄。

 タッチパネルで注文すると「にゃー」と言いながら可愛いロボットみたいな鬼が肉団子を運んできてくれる地獄。

 ウォーキングの後のご年配、部活帰りの学生、子供の誕生日を祝うファミリーなどさまざまな老若男女が集う地獄。

 レジの脇には、ついつい子供が欲しがるようなオモチャやお菓子が罠のように仕掛けられている地獄。

 本格中華がごくごく手軽に楽しめて、「ぱぱす」や「ウエルシア」や「スギ薬局」が並びにある街道沿いの地獄。

 なんて地獄なんだ。……そんな地獄に行きたくなってきた。

 しかも6000年。どこに根拠があるのかわからない、6000年という数字。世にいう「中国3000年」の倍の6000年。2倍。 ニバイニバイ! ニバーイ! ニバーミヤンっ!! 

 まさに地獄!!

 そうだ! 今日のお昼はバーミヤンにしよう!と外気温を見ると36℃。バーミヤンはもう無理ミヤン。家でそうめんだミヤン。

 ネットでバーミヤンのメニューを検索して雰囲気だけでも味わおうと思ったら、なんと!!

 バーミヤンには「肉団子」がありませんでした。

 肉団子はどこかにないのかな?……餃子の王将に「肉団子の甘酢」なるメニューを発見!!

「甘酢」!?

「頭から足まで大きな熱鉄の棒で打たれたり突かれたりして肉団子のようになり、鉄鍋で何度も炙られ」て、しかも甘酢をたっぷりとかけられ、それと和えられる。傷口に、甘酢がしみる、6000年。

 つらいなー。

 ……でも食べたい。

 甘酢がかかってるだけで、こんな暑さなんてへっちゃらな気がしてきました。だから、これから餃子の王将へGO。くれぐれも暑さで死なないように気をつけねば。

 死んだらどうせ地獄へ落ちるのだから、肉団子を食らう前に肉団子にされないように、死なないように気をつけねば。

 ということで、みんな死ぬな! 生きろ!

 以上、この書面をもって暑中見舞いのご挨拶とかえさせていただきます。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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