●警察報道に多用され続ける副詞 定型の常套句とは決別を
2点目は不必要な副詞の多用だ。事件報道では「警察が慎重に調べを進めています」「警察は懸命に犯人の行方を追っています」などの言い回しがたびたび使われる。警察が「慎重に」捜査し「懸命に」容疑者を捕まえるのは当然の責務だ。むしろ、そうでなければ、それが大きなニュースになるべきだし、メディアは警察の怠慢ぶりを厳しく追及すべきだろう。
3点目は事件の容疑者に関する性別表現の仕方である。「男(おとこ)は」「女(おんな)は」という呼称が定番化し、当たり前のように使われているが、私には強い違和感がある。日本語の文章として品性に欠ける。それ以上に報道する側の侮蔑感と懲罰意識を感じてしまう。まるで容疑段階の人物に対し、有罪を前提に報じているかのようでもある。より一般的な用法である「男性」「女性」に改めることに何か大きな問題でもあるのだろうか。
テレビ放送70年の歩みのなかで、事件報道の原稿が定型化し、紋切り型の常套句を数多く生み出してきた。そこには先人たちの創意と工夫が息づき、一つの時代を築いてきたのは疑いのない事実である。だが、古い定型文体や常套句とは決別し、言葉遣いや表現の方法についても見直し、新しい表現を心がける時機に差し掛かっている。
「映像が第一」「映像の良し悪しがニュースの優劣を分ける」とは、テレビ報道の世界でよく耳にする話だ。半分は正しく半分は正しくない――私は常々そう考えてきた。活字媒体であれ、映像・音声媒体であれ、ニュースの中軸を成すのは言葉である。迫真性に満ちた衝撃的な映像も重要だが、それを説明する言葉が介在しないと結局は視聴者に意味が伝わりにくい。テレビ報道は言葉と映像・音声という両輪で成り立っている。
報道の本旨は真実に迫り、事実に裏付けられた情報を正確に伝えることにある。その基本に、正しい日本語の用法、正確な言葉遣いがなければならない。残念なことだが、最近のテレビ報道はその基本を見失っているのではないかと感じることがしばしばある。
●いとう・ゆうじ 元毎日新聞アフリカ特派員、元TBSロンドン支局長、元TBS外信部長。