自転車レース「全日本選手権ロードレース2014」で繰り広げられた人間ドラマにスポットをあてたノンフィクション。
まずタイトル「エスケープ」。レース本でなぜ、「ウイン(勝利)」ではなく、「逃げる」のか。読み進めるうち、勝つためにそこに込められた戦略、レース展開、それぞれの選手たちの役割と葛藤、その意味が次第に解きほぐされていく。
自転車関係の本をいくつか手掛けた著者が本作でスポットをあてた選手への思い入れが、レース展開とともにダイレクトに伝わってくる。
総距離252.8キロ。一周15.8キロのコースを16周するレース。本書には数ページごとに「残り○km」という表示が記されている。その数字が読み進むうちカウントダウンされ、ヒリヒリした緊迫感にいつの間にか包まれていることに気づく。
ゴールが近づく。残り距離の単位が「km」から「m」に変わる。ロードレースの展開さながら、スピード感と高揚感を感じ、ページをめくる。そしてゴールへ。「逃げろ!」、自然とそう念じていた。
※週刊朝日 2016年2月19日号